
ピンチを脱して雄叫びを上げる今永
マウンドで試合を支配する投手はグラウンドの中で一番、注目を集める存在だ。ピンチを切り抜けたときのガッツポーズ、痛打されうなだれる姿など、一つひとつの仕草がテレビ中継などでもクローズアップされる。
人間だから感情があふれるのは当然のこと。それを態度に表すか、表さないか。そうしたマウンドでの立ち振る舞いについて、
DeNAの
今永昇太、
石田健大、
濱口遥大の3人のサウスポーはそれぞれの考え方が面白い。
2017年、チーム最多の11勝を挙げ、ポストシーズンでもフル回転した今永は「ここぞ」の場面では内側に溜めこんだ気迫を吐きだすようなガッツポーズを見せるが、普段はほとんど表情が変わらない。教訓にしていることがある。プロ入り1年目、
広島とのCSファイナルステージで先発した今永は、初回に際どいゾーンをボールと判定され「今のはストライクでしょう」と顔をゆがめると、四球でリズムを崩し1イニング6失点と崩れた。試合後は「客観的になれなかった……」と冷静さを欠いた自分を責めた。それ以来、今永は感情のコントロールを特に意識するようになった。
石田も信念を持っている。17年の開幕投手を務めた左腕は「試合が終わるまでニコリともしない、そんなピッチャーになりたいんです」と言う。相手打者、相手チームと戦う中で、自分の感情を表に出すことは何一つプラスにならないというのが彼の考え方。「『なんで打たれたんだ』とか態度に絶対出さないようにしています。大ピンチで抑えても『よっしゃー!』とか極力したくないんです」と徹底している。
プロ1年目で2ケタ勝利を挙げた濱口は3人の中では、最も闘志をみなぎらせてマウンドに立つ。本人も腕を振って、気迫を前面に押し出すスタイルが持ち味だと考える。しかし、ピンチや打たれたときの態度は先輩2人の姿から学んだ。「今永さんもおっしゃっていますが、気持ちがマイナスな方向に向かってしまうと結果は出ません」と悔しさ、情けなさはグッと胸の中にしまっていると言う。
彼らのようにマウンドでの態度、表情の裏に感情のコントロールがわずかに見え隠れするのも野球の魅力の一つだ。
ラミレス監督がよく口にする「野球はメンタルスポーツ」とは、こうした一面も当てはまるのだと思う。
文=滝川和臣 写真=内田孝治