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1999年6月12日の阪神対巨人で新庄剛志が敬遠のボールをサヨナラ打。もうこんなシーンは見られない?
守備側の監督が敬遠をする意思を球審に伝えれば、投手が1球も投じることなく四球となる“申告敬遠”が2018年より日本でも導入される見通し。今月中に開かれるプロ、アマ合同の規則委員会で最終的に判断され、統一のルールとして規則化、適用は各団体に委ねられることになりそう。
申告敬遠は試合時間短縮などを目的にMLBで2017年より実施。MLBで導入された新ルールは1年後に日本(NPB)でも導入されるのが通例となっており、例えば近年では2015年に導入された本塁での衝突防止(コリジョンルール)、2016年の併殺阻止のスライディング禁止などもその翌年に日本で実施されている。
仮に申告敬遠が実施されるとどうなるのか。
単純に捕手を立たせての敬遠の必要がなくなり、ディフェンス面ではメリットがありそう。昨年5月21日の
ヤクルト対阪神(神宮)では、7回二死二、三塁の場面でヤクルト・ルーキが投じた敬遠球が暴投となり、これが決勝点となったが、申告敬遠の導入で、敬遠時のバッテリーミスによる失点の可能性はゼロになる。
プロ、アマを問わず、加減をして投げることが苦手な投手は少なくはなく、野球解説者で元
ロッテ捕手の
里崎智也氏も「敬遠はランナーを置いた緊迫したケースで行うことが多いわけですが、そうした場面のピッチドアウトは暴投の可能性もあり、受けるほうも最悪の事態を想定しています。 敬遠の申告制が導入されれば、あれこれ気を遣わなくてもよくなりますし、単純にディフェンス面だけを考えればメリットはあります」と言う。
一方で過去に巨人の
クロマティ(1990年)、阪神の新庄剛志(1999年)が敬遠のボールをサヨナラ打にするなどの敬遠がらみの“ドラマ”は生まれにくくなる。また、昨年、MLBの公式戦で実際に敬遠された
イチロー(当時マーリンズ)は「空気感があるでしょ、その4球の間に。面白くない」とバッサリ。
これには里崎氏も「制度を決めている側は野球の随所に存在する“間合い”の重要性が分かっていません。次打者のネクストでの時間、そして打席に向かう際も、ゆっくり歩きながら心、体を研ぎ澄ませているのです。打席に立ってからも相手の間合いだと思えば打席を外すし、投手だってリズムを嫌がればプレートを外します。その駆け引きも野球の大切な要素。敬遠の申告制はそんな時間を取り上げるような行為です」。
ちなみに、“申告敬遠”は時間短縮が目的の1つだが、MLBでは導入初年度の2017年に敬遠は970個(1試合平均0.4個)あったものの、1試合の平均時間(9回)は3時間5分で2016年よりも4分伸びるという結果に……。
なお、日本では2017年の敬遠四球はセ・パ合わせて90個(セ・リーグ44個、パ・リーグ46個、1試合平均0.1個)のみで10試合に約1個の計算。敬遠自体がMLBよりも圧倒的に少なく、果たしてこれで時間短縮に効果があるのかどうか。加えてリプレー検証を大幅に拡大する“リクエスト制度”も導入する見通しで、こちらは時短どころか余計に時間を要することが予想される。規則委員会の最終判断の行方と、納得のいく説明を待ちたい。
文=坂本 匠 写真=BBM