読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.元巨人の桑田真澄さんは「ピッチャーは投げ終えた後、9番目の野手だ」と解説で話していましたが、プロのピッチャーはシーズン中、どの程度ノックを受けているのでしょうか。キャンプなどで投内連係を見学したことはあるのですが、シーズン中にも行っているのでしょうか。(山梨県・42歳)
A.キャンプ、シーズン中を問わず徹底的にやります。大事なのは不安、苦手意識を消すことです。

元阪神・藪恵壹氏
「9番目の野手」というのはまさにそのとおりですね。ピッチャーは投げればいいというだけではありません。フライなどは周りの野手に任せるのがセオリーというか、一般的な考えですが、さばける範囲の打球はアウトにしてあげないと、自分自身の首を絞めることになります。ケガ防止の意味もありますね。
キャンプではほぼ毎日、ノックの時間が設けられています。ピッチャー陣全体でやることもありますし、班分けされてピッチングなどの合間や順番待ちの時間に受けることもあります。単純なノックの場合もあれば、ベースカバーの練習、各塁送球、野手と一緒に行う投内連係、そこからさらに踏み込んで実戦を想定したケースノックなど種類もさまざま。メジャーでも同様で、こちらも5~6セクションに分けられて例えばピッチングやノック、ベースカバーなどを20分交代で順番に回っていくような流れですね。
日米を問わず、ショートスローや各塁送球、バント処理が苦手なピッチャーは結構いて、キャンプなどでそれが分かればコーチ陣も工夫して練習をさせて、苦手意識をなくしていきます。守備は練習すればしただけうまくなりますからね。
まず大事なのは不安、苦手意識を消すことです。特にプロでは、バント処理が苦手という情報が入れば、徹底的にバントで揺さぶってきます。良いピッチャーなのですから、何とか崩そうと思うのは当たり前。それでピッチャー側も崩れていては意味がないので、プロでも徹底的に守備練習をするのです。
私も阪神コーチ時代、苦手な選手には全体練習後、個人練習の時間を割いて徹底的に守備をさせていました。また、いわゆるピッチャーが行なう「ゴロ捕」には、トレーニングの意味合いもあります。うまく捕るのではなく、しっかりとお尻を落として、お尻、もも、ふくらはぎを鍛える。ピッチングフット、投げるための足を作るために、キャンプではゴロ捕もいっぱい行います。
シーズン中も定期的にノックを行いますが、例えば試合で何かミスが出たとき、バント処理やカバーリングで拙いプレーがあったときは、翌日の試合前にピッチャー陣全体で確認の意味も込めて守備練習がメニューに組み込まれることがあります。
写真=BBM ●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。