
オリックス・田嶋は佐野日大高時代、3年春のセンバツに出場し、4強進出の原動力となっている(写真は佐野日大高グラウンド)
キャンプインまで早くも10日余りだが、各メディアの自主トレ報道は「
清宮幸太郎」一色である。予想どおりの展開となったわけだが、アクシデントがない限りは、キャンプ、オープン戦もフィーバーは続くことだろう。ある意味、これが注目ルーキーの宿命でもある。
そんな“喧騒”をよそに、充実の調整を進めていると思われる「即戦力」がいる。昨年10月26日のドラフトで、オリックスが
西武との競合の末、1位で獲得した左腕・
田嶋大樹(JR東日本)だ。2017年の「社会人No.1投手」が投じるストレートの質はまさしく超一級品。実戦が始まっていけば、その露出も自然と増えていくに違いない。
初めて田嶋を取材したのは2013年12月。翌14年に佐野日大高(栃木)のエースとして出場する、3年春のセンバツを控えた同校グラウンドで話を聞いた。朴訥とした受け答えに終始し、言葉数も決して多いほうではなかった。
しかし、控え目な性格に、だまされてはいけない。孤独なマウンドで、力を発揮するタイプ。当時から芯の強さは半端ではなかった。こんなエピソードがある。
センバツ出場への貴重な資料となる2年秋の関東大会。東海大甲府高(山梨)、横浜高(神奈川)を撃破して4強進出。この時点で甲子園出場は「有力ライン」だったが、準決勝も気は抜けない。下手な試合をすれば選考委員の心象を悪くし、最悪の展開もあり得るからだ。
桐生第一高(群馬)との準決勝。佐野日大高は田嶋を温存したものの、0対4の1回途中から救援しなければならない、想定外の状況となった。これ以上の失点は許されない。それこそ、
コールド負けでもしたら、これまでの積み重ねが台無しになる……。
エース投入も、試練は続く。田嶋は3回の打席で、一塁を駆け抜ける際に左足首のじん帯を痛めた。軸足が踏ん張れない致命傷であり、投げられる状態ではなかったという。
「エースの意地、プライド。引き下がるわけにはいかない」
志願の続投。試合には敗れた(0対5)が、田嶋の「男気」は称賛に値した。10月末の「センバツ当確」を引き換えにその後、翌年の1月末まで投球練習を封印する大ケガだった。
やるときはやる――。ドラフトイヤーとなった昨夏の都市対抗でも、周囲を驚かせた。
分業制が当たり前の社会人野球では異例とも言える、1回戦から準々決勝まで3戦連続で先発したのだ。伏木海陸運送との1回戦で完封すると、中3日の三菱重工名古屋との2回戦でもシャットアウト。さらに中2日の東芝との準々決勝も9回途中(3失点)まで投げた責任感と精神力。これほど頼りになるエースもいない。
田嶋はチームを背負う「覚悟」が備わった投手だ。オリックスは昨年、田嶋と同じく高卒3年目でプロ入りした社会人出身ルーキー・
山岡泰輔(瀬戸内高-東京ガス)が大活躍した成功例がある。
田嶋が2018年新人選手で、話題の中心となるのも時間の問題だ。まず、キャンプのフリー打撃でそのベールを脱ぐ――。Lケージ越しに立つ打撃投手・田嶋が、自慢の真っすぐで主力打者を封じ込めるシーンが目に浮かぶ。
文=岡本朋祐 写真=BBM