長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。 逆転の発想で

木俣の“変則マサカリ打法”
ミナミのス
ナックでブランデーを飲みながら、ふと思った。
「最初から下げていたら、これ以上は下がらんのやないか」
体じゅう脱力し、くねくねしながら構える近鉄・
梨田昌孝の“コンニャク打法”(の発想)誕生の瞬間である。
もともとグリップの下がり過ぎに加え、構えで力が入り過ぎるクセがあり、その修正法で悩んでいたのだが、力が入り過ぎるクセも、逆転の発想でと極端に力を抜き、手足を動かしながらリ
ラックスしようと思った。
西本幸雄監督には反対されると思ったが、反対されたらトレードに出されてもいいと覚悟しての挑戦だった。
有田修三との併用が続き、このまま終わりたくないという反発心もあった。
これが練習ではいい感覚で打て、予想に反し、西本監督も何も言わなかった。しかし試合になると、その構えをした途端、観客席から笑いが起き、「おい、トイレに行きたいか」とヤジられたりした。
最初はかなり恥ずかしかったが、結果的にはそれでも続け、しかもしっかり結果を出し、正捕手に定着したことで、逆に自身のトレードマークになった。いつしか、その構えをすると歓声が起こるようにもなったという。
梨田昌孝(なしだ・まさたか)
1953年8月4日生まれ。島根県出身。浜田高からドラフト2位で72年近鉄入団。強肩強打の捕手として台頭。ただ、有田修三との併用が長く“アリナシ・コンビ”とも言われた。88年限りで現役引退。その後、近鉄、
日本ハム監督として優勝1回ずつ。現
楽天監督。通算成績1323試合、874安打、113本塁打、439打点、41盗塁、打率.254。
写真=BBM