
自分をしっかり理解しているからこそ、オリックス・田嶋は連日ブルペン入りする
糸を引いたようなボールがキャッチャーミットに収まっていく――。今春キャンプでオリックスのドラ1左腕・
田嶋大樹が、プロでは珍しくキャンプインから連日ブルペン入り。新人年の開幕に向け、快調に飛ばす左腕だが、決して首脳陣にアピールするために投げ込んでいるわけではない。
「JR東日本のときから、そうだったので」
ブルペン入りの理由を端的に話す左腕だが、確かに社会人時代もそうだった。
都市対抗の開幕が約2週間後に迫った昨年6月末。JR東日本のグラウンドに足を運んだ。午前中は軽めのメニューをこなすと、午後はブルペンへ。
すると、キャッチャーミットの捕球音が幾度も響き渡る。マウンド上の田嶋が投じた球数は250。大舞台を前にして異例の数だ。それも全身の力をぶつけるように、リリース時に声を張り上げている。数だけを意識した投げ込みではないのは明らかだった。
なぜ、そこまで投げ込むのか。何を意識して投げているのか。そんな疑問をぶつけてみると、明確な答えが返ってきた。
「僕、試合終盤に打たれるケースが多くて。だから課題はスタミナなんです。ただ、走り込みでつけるスタミナではなく『肩のスタミナ』。それって、投げ込みをしないとつけられないと思うんですよね。だから多く投げ込んでいるんです」
さらに理由はもう1つ。自身を「感覚派」と言い、調子のバロメーターは「ボールを持ったときの重さの感覚」だという。「ボールが重く感じても、軽く感じてもダメ。重いときは疲労が原因のことが大半なので修正できる。でも、軽過ぎるのが一番よくないんです」と、投球練習は感覚を確かめるのも理由だ。
キャンプ、それも投手となれば、報じられるのはブルペンでの様子ばかり。連日のブルペン入りで、オーバーワークを不安視する声も出てくるだろうが、その心配はないだろう。佐野日大高時代にケガをした苦い経験もあり、体のケアを軽視していない。
象徴するのが、練習前後に入念に行うチューブ・トレーニングだ。ボールを持ったときの感覚を引き合いに、こんなことを話したことがある。
「ボールが軽すぎると感じる原因は何なのか。トレーナーさん聞いてみたんですけど、インナー(マッスル)が人よりも緩いらしいんです」
だから、チューブ・トレーニングでインナーを締ることに注意を払うなど、体のケアに気を配るのも忘れない。
プロでは珍しいものの、1月の自主トレ、そして今春キャンプも初日から連日ブルペン入りを続ける田嶋の姿を見ても驚きはない。むしろ、アマチュア時代からの考えをプロでも実践する様に、ブレることない芯の強さを感じる。
「まだ僕はプロで1球も投げていない。だから、分からないことばかりだと思う。プロで何を感じるのか。そこで初めて自分に必要なことが分かると思うんです」
現在、ドラフト前に発したコメントの道中にいる左腕。“連日のブルペン入り”を経て、今後、何を感じ、どう実践に移していくのか。今日からキャンプも第2クールへ。自分のことをよく理解している左腕の、プロ1年目に向けた調整ぶりに注目したい。
文=鶴田成秀 写真=佐藤真一