いよいよ決勝を迎えた「第90回記念選抜高校野球大会」。歴代の名勝負をピックアップし、1日1試合ずつ紹介していく企画も最終回とさせていただく。 「清原には120パーセントで」

ここぞというときに力を込める頭脳派でもあった渡辺
1985年4月6日準決勝
伊野商(高知)3-1PL学園(大阪)
センバツは、もちろん大会として完結はしているが、もう一つの見方としては、夏の大会の前哨戦の意味合いもある。
1985年センバツ準決勝。伊野商対PL学園戦は、ゲームそのものの緊迫感に加え、そんなセンバツらしい意味合いもあった好勝負と言えるだろう。
「生まれて初めて力と力の勝負で負けた」
当時PL学園3年だった
清原和博は、プロ入り後も、ずっとそう言い続けている。伊野商のエース、
渡辺智男との対決である。
開幕前、野球王国・高知からの代表ながら、初出場でほぼ全国的には無名だった公立校・伊野商を優勝候補に挙げる声は皆無だった。というより、清原と
桑田真澄、KKが最高学年になったPL学園が絶対の優勝候補に君臨していた大会だった。
「1勝できれば」と目標を掲げた伊野商だったが、眼鏡の投手・渡辺の投打にわたる活躍で快進撃を見せ、準決勝でPL学園と対戦した。
初戦からデータ収集や分析をまったくしなかったという渡辺だが、PL学園戦では一つだけ作戦を立てたという。それが「清原には120パーセントで。そのために、ほかは80から90パーセントで」というものだった。
清原との対戦は4打席。結果は第1打席空振り三振、第2打席空振り三振、第3打席ストレートの四球の後、第4打席は146キロのストレートで空振り三振とした。カーブはわずか1球の力勝負。清原は一度もバットにかすることさえ、できなかった。
試合は打線が桑田から3点を奪い、3対1で勝利。続く決勝では帝京(東京)を4対0で制し、優勝を飾った。
そして、この敗戦がKKに火をつけ、夏の圧巻とも言える優勝に結びついた。ちなみに伊野商は、夏は県大会決勝で敗退。プロでは渡辺が清原と同じ
西武でユニフォームを着ていたのが長かったこともあり、公式戦での対戦はなかった。
渡辺は、引退後のインタビューで「対戦したかったのでは」と聞かれ、「やっぱり勝ち逃げがいいでしょう」と言って笑った。プロでもそうだったが、絶品のストレートを持ちながらも、力を入れるところ抜くところがあったタイプで、どこか
江川卓(作新学院─法大─
巨人)を彷彿とさせる天才肌の男だった。
写真=BBM