読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.中学生を指導している者です。右のオーバーハンドで球速の出る選手がいるのですが、左ヒザが開くクセがあり、さまざまな方法を試しましたがなかなか直りません。良い矯正方法や意識すべき点などを教えてください。(東京都・27歳)
A.カカトの真上にヒザが乗っかるように位置すること。フロントランジが筋肉も鍛えられて一石二鳥。

元阪神・藪恵壹氏
質問の方が「左ヒザが開く」ことをどの程度のものを指しているのか分かりませんが、ステップしたほうのヒザ(左ヒザ)は、開かないと投げられません。ワインドアップモーションにしろ、セットポジションにしろ、モーションを起こして左足を上げたとき、両足のヒザは三塁ベース方向を向いています。この向きをキープして投げることは不可能、ということです。
ざっくり言ってしまうと、ステップしていく方向(つまりホームベース方向)に、足を上げた状態の向きから90度は開くことになりますね。おそらく、質問の「開く」は90度開いた状態から、さらに一塁ベンチ方向に開いたことを指しているのだと想定して、話を進めていきたいと思います。
この中学生のヒザが開いて見えるということは、カカトの位置と、ヒザの位置がズレているのでしょう。理想はカカトの真上にヒザが乗っかるように位置し、いわゆるヒザのお皿がホームに真っすぐに向くことです。このとき、つま先を多少は内側に絞る意識(内股にしろとまでは言いません)があるとなお良いでしょう。
ヒザの向きと位置をキャッチボールの段階から意識し、それをクセづけない限り、修正は難しいと思います。まずはこのキャッチボールでどの程度ヒザが開くのか、映像に撮り、本人に自覚させる必要がありますね。
その上で良い修正法としては、筋力トレーニングの1つのメニューでもあるフロントランジが最適だと思います。正面を向いて真っすぐに立った状態から、左足を前に大きく踏み出し(※トレーニングとしては左、右の交互)、大臀筋、大腿四頭筋、ハムストリング、内転勤、ふくらはぎ、股関節周りの筋肉と、下半身の複数部位を鍛えるものですが、大きく踏み出した形が、ピッチャーがステップし、いわゆるトップを迎えた形と同じで、必須のトレーニングメニューです。
本来の目的は筋肉を鍛えるためですが、このときにヒザとカカトの位置関係を動きの中で身に付けることが可能です。単調な動きなので、踏み出す先にボールを投げてあげて、そこで捕球させ、それを繰り返すと飽きることなく取り組めると思います。ちなみに、ヒザが開く原因は中学生ですから、下半身の筋力不足も考えられますので、一石二鳥のトレーニングだと思います。
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。