相手は大エース、金田正一

1年目はあの天覧試合もあったが、18勝、防御率1.19で沢村賞にも(左は巨人・長嶋茂雄)
懐かしい名前が新聞の一面に躍った。
阪神の
村山実である。悲壮感漂うザトペック投法で、特に対巨人、対長嶋茂雄に闘志を燃やし、「二代目ミスタータイガース」「炎のエース」とも言われた男だ。
村山の名前をよみがえらせたのが、阪神のドラフト2位新人・
高橋遥人だ。4月11日、甲子園での
広島戦で7回2安打無失点の快投で勝利投手に。甲子園でのプロ初登板初先発初勝利は、1959年村山以来59年ぶりだったのだ。
高橋遥の素晴らしいピッチングについては、すでにあちこちで報じられている。ここでは、59年前の村山のピッチングについて振り返ってみたい。
関大から入団した右腕・村山は、4月14日、開幕2戦目に先発した(開幕投手は
小山正明)。相手は国鉄、マウンドに立つは、大エース、
金田正一である。村山に登板が伝えられたのは前日の13日だ。日系人の
田中義雄監督から「相手は金田だよ。思い切ってやってごらん」と言われた。
登板前、新聞記者に「自信は?」と聞かれた村山は、緊張でヒザがガクガク震えていたとはいうが、ニッコリ笑い、「金田さんには胸を借りるつもりでいきます」と言った。なかなかの強心臓である。
先頭の
町田行彦の場面で、捕手の
山本哲也が初球に出したサインは「暴投しろ」だった。
「マウンドでカチンカチンになっていた私を見て、とりあえず緊張を解きほぐそうとしてくれたのでしょう」(村山)
サインどおり(?)、バックネットにブチ当てた村山だが、2球目で町田のワキ腹にズドン。次は四球。とにかくストライクが入らない。
しかし、これで国鉄の打者が「当てられてはたまらん」と腰が引け、その様子を見て、村山の緊張もすっと抜けたという。
そこから三者凡退。それどころではない。7回一死までノーヒットノーランの快投。最終的には被安打2の完封で初勝利を飾った。武器となったのが快速球とフォークだったが、村山は以降数年間、「沈むシュート」と言い続け、フォークとは明かさなかった。
国鉄の先発・金田は3失点で敗戦投手。試合後、「あの小僧っ子には、次当たったとき、プロのほんまもんを見せたる」と悔しがったという。
写真=BBM