
藤岡裕は開幕からスタメンの座を守り続けている
「先輩方を見ていると、負けても引きずらないのがすごいですね。確かに143試合あるので、切り替えてやっていかなければいけない」
そう話していた
藤岡裕大が、ひとつのミスを引きずっていた。4月17日の
オリックス戦(ZOZOマリン)、7回表の遊撃守備で先頭・
大城滉二のゴロをファンブル。幸い失点には結びつかなかったが、前日まで捕手の捕逸以外では野手の失策ゼロを誇っていたチームにとって、事実上の今季初エラーだった。
開幕スタメンで3安打を放ち、以降も「二番・遊撃」の座を守り続けているのが藤岡裕大だ。鮮烈デビューにより打撃のイメージがついたが、強肩を生かした堅守あってこそのレギュラー奪取。それだけに「正直ちょっと引きずっていた」と振り返る。
だが、バットですぐに取り返した。直後の7回裏、二死二塁で打席が回る。「チャンスで回ってきたので、ここで結果を出すしかないと思い切っていきました」。2ボール2ストライクから
近藤大亮が投じた見逃せばボールだったであろう高めのストレートを振り抜くと、打球は右翼席中段へ突き刺さった。
15日の
ソフトバンク戦(鹿児島)に続く2試合連続弾は、チームを勝利に導く決勝の2ランとなった。それでも打撃の状態は「全然よくないです。2試合のホームランはたまたまなので、これからはきっちりヒットを重ねていきたい」と大きなことは口にしない。確かにこの試合の終了時点で打率は.224。極度の打撃不振から完全に抜け出したわけではなく、遊撃のポジションは
平沢大河や
三木亮が常にその座をうかがっている。
そんな男が唯一、プロの世界に飛び込む前から口にしている“大きなこと”がある。新人王だ。トヨタ自動車の先輩であり昨季の新人王を獲得した
西武・
源田壮亮。その1年目を超える活躍をすること。打撃が下降線をだどりつつあった4月中旬にも「1年間続けて結果を残せるように」という目標に続けて、「その中で新人王というタイトルが獲れるなら、と思います」という言葉を口にしていた。
4月20日の西武戦(メットライフ)では好守も見せたが、失点につながる送球ミスも犯してしまった。果たして藤岡裕はこのミスも”引きずらず”に切り替えて次へ進めるのか。足下を見つめながらも、大きな目標に向けて一歩ずつ。プロでの歩みは、まだ始まったばかりだ。
文=杉浦多夢 写真=松田杏子