
逆転満塁弾を放ち吠える谷
プロ野球の歴史の中から、日付にこだわってその日に何があったのか紹介していく。今回は4月24日だ。
4万6673人のファンが詰め掛けた東京ドームのお立ち台で大歓声を浴びた
巨人の
谷佳知は、何度も声を詰まらせた。
「今日はタクの日だったので、ぜひ勝ちたいと思って試合に臨みました。拓也とは同級生で、いつもいつも励まし合って、プロでずっとやってきたんですけど、先に逝かれて……。もう悲しくて……。いつも泣かないでおこうと思ったんですけど、涙が全然止まらなくて……」
2010年4月24日の
広島戦(東京ドーム)は、7日にくも膜下出血で亡くなった故
木村拓也コーチ(享年37)の追悼試合だった。1点を追う8回、一死満塁で代打として打席に向かった谷は外角高めの直球をフルスイング。打った瞬間にガッツポーズが飛び出すほどの会心の一撃は、左中間スタンドへと吸い込まれていった。プロ14年目にして公式戦初となる満塁弾。「こんな日に打たせてもらったのも拓也のおかげ。天国に行っていると思うけど、“良かったな”と笑ってくれているでしょう」。
さらにこの回、
イ・スンヨプのソロ本塁打が飛び出して結局、巨人は7対4で勝利。故木村コーチに手向けとなる白星を贈ることができた。
「拓也と谷は仲が良くて、試合後に2人でおいしそうにタバコを吸っている光景が目に浮かびます。何か不思議なものを感じますね」と原監督も感慨深げ。午前中には都内のホテルでお別れの会が開かれ、弔辞を述べた指揮官は「拓也の精神は私たちの心のなかで間違いなく脈打っています」などと目を潤ませながら故木村コーチを弔った。
試合前には追悼セレモニーが行われ、故木村コーチの在りし日のVTR映像が流れた後、全員で黙とう。始球式は長男・恒希(こうき)君が務めた。父の現役時代の背番号「0」を背負ってマウンドに上がった恒希君は
阿部慎之助のミットへ見事なストライク投球。ボールを受けた主将は恒希君の頭をなでながら、「下の子が2人いるんだから、今まで以上に優しくしてあげてね」と語りかけた。試合後には谷からウイニングボールを渡された恒希君。「これから大変だろうけど頑張って。野球をやっているんだろう。プロを目指してな」と言葉を掛けられていた。
写真=川口洋邦