プロ野球史を彩ってきた数多くの名選手たち。生まれた世代ごとに週刊ベースボールONLIN編集部がベストナインを選定して、“史上最強世代”を追いかけてみる。 左打者に偏る異色の世代
プロ入りまでは無名に近かった投手が、やがて世代を引っ張る打者となり、そしてメジャー・リーグのレジェンドに。2018年5月、マリナーズの会長付特別補佐という“アスリート”として、誰も踏み入れたことのない領域へと歩み始めたイチローが世代の顔だ。
好打者という表現すらはばかられるほどの左打者だが、この1973年に生まれた世代は、どういうわけか左の好打者が多い。ここまで左打者に偏っている世代は異色。アベレージヒッターから長距離砲まで、守っても内外野に捕手までが左打者で、タイプも多彩だ。
【1973年生まれのベストナイン】(1973年4月2日〜74年4月1日生まれ)
投手
石井一久(
ヤクルトほか)
捕手
礒部公一(近鉄ほか)
一塁手
小笠原道大(
日本ハムほか)
二塁手
塩崎真(オリックス)
三塁手
中村紀洋(近鉄ほか)
遊撃手
小坂誠(
ロッテほか)
外野手 イチロー(オリックス)
清水隆行(
巨人ほか)
坪井智哉(
阪神ほか)
指名打者
松中信彦(
ソフトバンク)
イチローのいる外野にはアベレージ型が並ぶ。同じ“振り子打法”で99年の新人王を争ったのが坪井智哉で、「球界最速の打球スピード」とも言われ、長打力も兼ね備えていたのが清水隆行(崇行)。外野は3人とも左打者だ。
捕手に据えた礒部公一も左打者で、2年目に外野手へ転向したが、すぐ捕手に再コンバート、またすぐに外野手となって、ベストナインにも選ばれている。近鉄の最後と
楽天の最初に選手会長を務めていて、そのリーダーシップをリードにも発揮してくれそうだ。
一塁にいる小笠原道大はトレードマークのフルスイングから強打だけでなく高いアベレージも維持した好打者。遊撃の小坂誠も左打者で、盗塁王とリーグ最多犠打が2度ずつの俊足巧打タイプだ。長距離砲タイプの筆頭は指名打者の松中信彦だろう。04年に時代が平成となって初の三冠王に輝いた左の強打者。迎えた18年、三冠王が誕生しなければ、松中は唯一の“平成の三冠王”となる。
投手陣は右腕が大多数
“貴重な右打者”というのも珍しいが、二塁にいる塩崎真は遊撃を中心に守ったユーティリティーだ。三塁守備も巧みだったのが中村紀洋で、“いてまえ打線”の主砲として通算400本塁打を超えた右の強打者。松中と小笠原も通算350本塁打をクリアしていて、この3人が並ぶクリーンアップも強力だ。内野手の
高木大成(
西武)や外野手のバルデス(ダイエー)も同世代。やはり、ともに左打者だ。
ここでは日米で奪三振の山を築いた左腕の石井一久を左つながりでベストナインの投手に据えたが、投手陣は打って変わって右腕が多い。石井と先発で左右両輪となるのが“番長”三浦大輔(
DeNA)だ。16年限りで25年の現役生活を終えたが、イチローが海を渡ったため、この世代で最後のNPB選手でもあった。三浦と最多奪三振のタイトルを分け合った右腕の
門倉健(横浜ほか)も同世代。“ジョニー”
黒木知宏(ロッテ)もいて、安定した先発ローテーションが組めそうだ。
救援陣にも右腕が並ぶ。セットアッパーはメジャーも経験した
薮田安彦(ロッテ)。クローザーでは08年に当時最速の162キロを投げ込んだ
クルーン(巨人ほか)がいる。
投手陣は右に、打線は左に、ここまで偏ると不安になるが、投手陣は先発、救援に、打線は安定感に長打力、機動力とバランスは絶妙。守備にも穴がない。黄金世代と騒がれることは多くないが、間違いなく優勝候補だ。
写真=BBM