『TOYOの熱血 “生涯青春”を貫く名将の軌跡』

『TOYOの熱血 “生涯青春”を貫く名将の軌跡』(著者:高橋昭雄 出版社:ベースボール・マガジン社
東都リーグ(東都大学野球連盟)は東京を所在地とする21の大学野球部で構成される大規模な野球リーグだ。4部で入れ替えが行われるため競争が激しく、それゆえ「人気の東京六大学、実力の東都」とも評される。
本著者は東都リーグの雄、東洋大で46年間監督を務め、一部リーグ歴代最多の542勝を重ねた名将の監督回顧録である。
まず驚くべきは東洋大一筋に、46年もの長きにわたり指揮を執り続けてきた時間の重みだろう。無事是名馬というが、東洋大がずっと順風満帆だったわけではない。通算18度の優勝を誇る一方、3度の二部降格も経験している。それでも監督を解任されることがなかったのは、選手だけでなく、大学関係者も信頼を寄せていたからだろう。その理由は本書を紐解けばよく分かる。
本書の内容は先に述べたように監督回顧録である。あの時代に何があり、どう考え、指導したか。いい結果が出た年もあれば、そうでないシーズンもある。そうした事実を美化せず、また卑下することもなく、淡々と綴るのが基本スタイルだ。その記録の合間に大学野球監督としての信念、選手たちへの思いが、控え目ではあるが熱量のある言葉で挟み込まれる。
本書では「育てたのではなく、育った」と述べているが、著者が人材育成を最重視していたことは明らかだ。「負け続けている時こそ多くの選手を起用して痛みを共有させる」とか、「野球は正義感があるから成り立つ」など、人を育てるための言葉が本書にはあふれている。レスリングやアメフトで監督の不祥事が続くなか、実に爽やかな読後感が得られる一冊。
文=石富仁