古巣との戦いで千両役者の一発

懸命に日々を過ごしているBCL・栃木の村田修一
NPBに戻りたい――。それだけが栃木のユニホームに袖を通した理由であれば、男の心はとっくに折れていたはずだ。
「こういうところで野球をやってみて勉強できるのであれば、それも自分にとってプラスになる。戻るだけがすべてじゃない」
入団会見で語った思いを、村田修一は古巣との一戦で体現した。5月11日からの3日間、村田が所属するBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスは、本拠地・小山運動公園野球場で
巨人の三軍を迎え撃った。実はこのとき、村田は直前の試合で右の太もも裏を痛め、とても試合に出場できるような状態ではなかった。
「代打で出ても、一塁までたどり着けるか。タイミングが悪いですよね。神様はどこまで試練を与えるんだろう」
無理して故障がさらに悪化すれば、NPB復帰はその時点で絶望的となる。それでも村田は試合に出る決断を下した。
初戦は9回に志願の代打出場。異例の3000人を超えるファンが集った2戦目も1点を追う9回二死二塁から再び代打で登場し、今度は
田中大輝から左中間へ特大の逆転決勝2ラン。両軍ファンの大歓声を背に、千両役者は足を引きずりながらダイヤモンドを一周した。
印象的だったのは初戦の試合後の光景。村田はグラウンドにファンを招き入れ、1時間以上も延々と記念撮影に応じていた。『男・村田祭り』と銘打たれた3連戦だったとはいえ、村田としては一刻も早く体のケアに時間を充てたかったはず。結果的にNPB復帰がかなわなかったとしても、今は栃木での日々に真摯に向きあうことが未来につながると信じている。
苦境にもがくなか、男を奮い立たせた復活劇があった。
中日入りした
松坂大輔が4月30日の
DeNA戦(ナゴヤドーム)で日本球界復帰後の初勝利を手にしたときは「本当に良かった」と自分のことのように喜んだ。
「大輔には自分が納得するところまで野球をやってほしいし、僕がNPBに帰ることができて対戦する機会があれば、また燃える」
終生のライバルの奮闘は、今も村田の心を刺激し続けている。
幸い現在は傷も癒え四番・三塁で復帰した6月1日の武蔵戦(小山)では2号本塁打を含む4安打。体さえ動けば、あの力強い打棒はまだまだ健在だ。NPB復帰のリミットは7月末。もう一度、世代の両雄が同じ舞台に並び立つ日は来るか。
写真=BBM