長いプロ野球の歴史の中で、数えきれない伝説が紡がれた。その一つひとつが、野球という国民的スポーツの面白さを倍増させたのは間違いない。野球ファンを“仰天”させた伝説。その数々を紹介していこう。 スコアボードには表示が出ず……
1993年5月3日、
西武球場での西武対ロッテ戦で、8回から登板したロッテの伊良部秀輝は西武の四番・
清原和博に対し、当時の日本最速158キロのストレートを投じた。
その対決を振り返ってみる。
初球が151キロのストレートで見逃しストライク、2球目はさらにギアが上がり156キロでファウル。3球目はその158キロだったがファウル、次の球も同じく158キロだが、これもファウル。4球目はまたもストレートで154キロもファウル。1球、ボール球のカーブをはさんだ伊良部は、再び渾身の力で投げ込むが、157キロのストレートは清原に完璧にはじき返され、右中間への二塁打となった。
後日、この対決を伊良部は週刊ベースボールのインタビューで次のように振り返っている。
「158キロを出しましたよね。実を言うと、あのとき僕もびっくりしたんですよ。投げた後に後ろのスタンドが“ワ~ッ”って沸いたんで、何かと思ってパッと振り返って見たら158キロの表示。“えっ、こんなに出てたの?”というのが、あのときの心境なんです」
そして、続けた。
「だから、次はもっと力を入れて投げたのに、そのあとも157キロぐらいのが続いたんで、次の回の伊東(勤)さんのときに狙ってやろうと思ったんです、160キロを。その数字を出したくないと言ったらウソになりますし、すぐ手の届きそうなところに来ていましたから。
ボールになってしまったんですが、伊東さんに投げたあの1球は、160キロを超えてましたね。確実ですよ。スコアボードにスピード表示は出なかったんですけどね」
投げた瞬間は右ヒジがぶっ飛ぶような感じで、翌日には筋肉痛で腕がバリバリになったという。
2008年に
巨人の
クルーンが日本球界で初めての160キロ超えとなる162キロをマークしたが、もしかしたらこのときの伊良部が史上初だったかもしれない。
写真=BBM