読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は“足”のスペシャリスト、元巨人の鈴木尚広氏だ。 Q.数年前までパ・リーグの盗塁王は50盗塁以上(2016年も53盗塁)の争いになっていましたが、15、17年はセ・リーグと同様に35~40盗塁前後の争いになっています。なぜでしょうか。また、以前のパ・リーグで盗塁数が多かった理由も教えてください。(神奈川県・18歳)
A.リーグの野球のスタイルの違いが表れている。セは失敗に対してシビアで投手の阻止技術も高い。

巨人現役時代の鈴木尚広氏
確かに2008年以降の10シーズンを見てみると、盗塁王獲得者で50盗塁を超えているのはパ・リーグの8人(10年、16年は2人が同数。つまり、6シーズンで50盗塁以上)に対し、セ・リーグはゼロです。最多は11年の
本多雄一選手(
ソフトバンク)が60盗塁で、セでは10年の
梵英心選手(
広島)の43盗塁と、パのほうが数的には圧倒的に高いレベルの争いでした。
ただ、
赤星憲広さん(元
阪神)が現役だったころ、例えば03~05年は3年連続で60盗塁以上を記録し、タイトルを獲得しています。このとき、パは40盗塁台の争いと、走るポテンシャルを持った選手がいる、いないというのも大きくかかわってくるように感じます。ここ数年ではパのほうが多く、各球団1~2人は“走れる選手”がそろっているのではないでしょうか。
実際に、パのほうがここ数年はよく走っているのも確かで、これはリーグの野球のスタイルの差なのではないか、と私は考えています。例えばセの特徴として、攻守ともにより組織で動くことが求められます。盗塁にしてもがむしゃらに走るのではなく、「成功するためにはどうすべきか」、ということを突き詰めるので、企図数自体が限られてきます。
限りなく100パーセントに近い確信がある場合にしか走りません。言い換えると1つの盗塁失敗に対して非常にシビア。バッターが凡打する以上にアウトの重みが重い。そのため、積極性がなくなるケースがあるように感じます。企図数が増えなければ、盗塁の成功数も増えていくはずがありません。
一方のパは失敗を恐れずにガンガン仕掛けてくる野球が目立ちます。失敗がOKとは言いませんが、それに近い感覚がチームにあり、そうなってくればランナーはスタートを切りやすいですよね。
また、私の個人的なイメージとして、セのピッチャーのほうがクイックモーションやけん制が巧み。投げなくとも目線や間合いなどでベースにランナーをクギ付けにしておいて、ホームに投げる技術にも長けていると思います。これも組織の中で求められて身に付いていったもので、チームとして極力走らせない、走らせたとしてもスタートを遅らせることを徹底されます。これでは簡単にスタートを切ることはできません。
写真=BBM ●鈴木尚広(すずき・たかひろ)
1978年4月27日生まれ。福島県出身。相馬高から97年ドラフト4位で巨人入団。走塁のスペシャリストで、代走での通算盗塁数132は日本記録である。16年現役引退。現役生活20年の通算成績は1130試合出場、打率.265、10本塁打、75打点、228盗塁。