腕がちぎれても投げたいというヤツ

ヒーローインタビューも久保だった
7月27日の
ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)、育成から支配下に戻ったばかりの
楽天・
久保裕也が勝利投手になった。
おめでとう、と言いたいところだが、お前はまた言うのかな。
「僕、勝ち投手はいらないです」と。
2003年に東海大から
巨人に自由枠で入団し、最初は先発だったけど、俺がコーチになった11年はリリーフで投げまくっていた。
野球が好きで、腕がちぎれても投げたいという男だった。
11年は完璧だったけど、股関節とかヒジの故障もあって以後は厳しい時期もあった。
14年はなんとか復帰したけど、体はまだ万全じゃない状態。
原辰徳監督は、同じ東海大出身ということもあって久保には厳しかったけど、俺は「僕の責任で使わせてくれませんか」と言ったことがある。
以前のパフォーマンスを期待したわけじゃない。
俺は優勝するチームには7回以降を抑えきる確立されたリリーフ陣も大事だけど、先発が早めに崩れたときの4、5、6回で踏みとどまる投手も必要だと考えていた。
それに久保が使えないか、と思ったんだ。
あいつは本当に投げるのが好きで、キャンプでトータル1800球投げたこともある。リリーフなのにね。先発に「久保が1800球を投げているのに、なんでお前たちは投げられないんだ」と言ったこともある。
いつだったか忘れたけど、あいつが、
「僕、勝ち投手はいらないです。投げられたらいいんです」
と言った。そんな投手は初めてだったからびっくりした。
強がりじゃなく、ほんと投げるのが好きで、またよく研究していた。
一度、ブルペンでいつもと違う投げ方をしていたんで、「投げ方がおかしくないか」と聞いたときは、「肩が痛いんで、痛くない投げ方をしているんです」と言っていた。「ほんとか、そんなのあったら教えてくれよ」といったけど、これ、実はすごいことなんだ。
痛みがないだけではなく、実戦で使えるものだったしね。
そのあと巨人、移籍した
DeNAを戦力外になって17年、楽天にテスト入団。でも、オフには血行障害で育成に落ちた。
正直言えば、ふつう野球やめるよね。そのときでもう37歳だし。
でも、あいつは、そこで自分には野球しかない、となった。あいつらしいね、俺はすごくいいなと思った。
それでいま、一軍にいる。たぶん研究して血行障害でも投げられるフォームを見つけたんじゃないかな。
華やかではないけど、これもまた、素晴らしい野球人生だと思う。