1980年代。巨人戦テレビ中継が歴代最高を叩き出し、ライバルの阪神はフィーバーに沸き、一方のパ・リーグも西武を中心に新たな時代へと突入しつつあった。時代も昭和から平成へ。激動の時代でもあったが、底抜けに明るい時代でもあった。そんな華やかな10年間に活躍した名選手たちを振り返っていく。 巨人は“50番トリオ”が台頭
1983年、パ・リーグは2シーズン制からプレーオフつき1シーズン制へ移行。ペナントレース終了時点で勝率の上位2チームが5ゲーム差の中にいた場合にプレーオフを行うというものだったが、西武の独走で“企画だおれ”になった。
打線は
田淵幸一とテリーが爆発、投手陣は最優秀防御率、南海の
山内和宏と最多勝のタイトルを分け合って投手2冠に輝いた
東尾修を筆頭に
松沼博久、雅之の兄弟がローテーションを回して、打点王の
水谷実雄を擁する阪急に17ゲーム差のリーグ2連覇。
ロッテの
落合博満は3年連続で首位打者となったが、本塁打王に返り咲いた南海の
門田博光らに阻まれて2年連続の三冠王はならず。
異変が起こったのは盗塁王だ。82年の新人王でもある近鉄の
大石大二郎が初の戴冠。阪急の
福本豊が13年もの長きにわたって築いてきた牙城が、ついに崩れた。それでも福本は通算939盗塁で世界記録を更新し、同じ阪急からは
簑田浩二が30年ぶり4人目のトリプルスリーを達成。新人王に
日本ハムの
二村忠美が選ばれたことで、6チームすべてが表彰選手を輩出したことになった。
セ・リーグは2年連続で盗塁王となった“青い稲妻”
松本匡史と初の打撃タイトルとなる打点王となった
原辰徳がいる巨人と、
中日の
大島康徳と本塁打王を分け合った
山本浩二のいる
広島との首位争いになったが、背番号50の駒田徳広、54の槙原寛己、55の吉村禎章ら“50番トリオ”も頭角を現した巨人が6ゲーム差で2年ぶりの王座に。原がMVP、槙原が新人王に選ばれた。
平松政次が通算200勝を達成し、最多勝の
遠藤一彦、最優秀救援の
斉藤明夫が投手陣を引っ張った大洋と、首位打者の
真弓明信、最優秀救援の
福間納と投打にタイトルホルダーを輩出した阪神も激しく3位を争い、0.5ゲーム差で大洋が4年ぶりのAクラスに滑り込んでいる。
日本シリーズは巨人と西武による初の“盟主決戦”。第7戦までもつれたが、最後は接戦を制して西武が2年連続の日本一に。だが、プロ野球の創立50周年でもある翌84年には早くも主役の座が交代する。
セ・リーグを制したのは広島。原動力は“鉄人”
衣笠祥雄だった。プロ20年目にして初めて打率3割を超え、初の打点王にも輝いてMVPに。新人の
小早川毅彦も三番に定着して新人王に選ばれ、タイトルを逃した主砲の山本浩二も健在。西武からの“出戻り”
小林誠司が安定感のあるリリーフで規定投球回にも到達して最優秀防御率、先発に回った
大野豊が9連勝と前半戦を引っ張り、最終的には
山根和夫が16勝を挙げるなど投手陣には日替わりでヒーローが登場した。
阪神の
掛布雅之と本塁打王を分け合った
宇野勝がいる中日は3ゲーム差の2位。首位打者の
篠塚利夫が引っ張った巨人は3位につけた。最優秀救援の
山本和行と掛布という投打のタイトルホルダーを輩出した阪神はAクラスに大きく引き離されて4位。同じく2年連続で最多勝の遠藤に初の盗塁王となった
高木豊のいた大洋は最下位に沈んだ。
一方のパ・リーグは大石が2年連続で盗塁王となって意地を見せたが、タイトルホルダーには阪急の選手がズラリ。
今井雄太郎が最多勝、最優秀防御率の投手2冠となったものの、それを上回ったのが主砲の
ブーマーだ。いずれも初タイトルで、外国人選手としては初めてとなる三冠王に。他にも
藤田浩雅が新人王、
山沖之彦が最優秀救援に輝き、福本も通算1000盗塁に到達。6年ぶり、そして阪急としては最後となるリーグ優勝を飾った。日本シリーズは広島がブーマーを封じて5年ぶりの日本一に。プロ野球で支配下登録選手として初めて背番号0を着けた
長嶋清幸がMVPに選ばれている。
快進撃を見せた85年のトラ

85年、日本一に輝いた阪神
続く85年のパ・リーグは落合が3年ぶり2度目の三冠王に輝いたが、そのロッテは最優秀救援の
石本貴昭がいる近鉄、新人王の
熊野輝光と盗塁王の
松永浩美がいる阪急との2位争いに終始。右ヒジ手術から復活して日曜日ごとの登板で“サンデー兆治”と呼ばれた
村田兆治の11連勝もあったロッテが0.5ゲーム差で2位につけた。そのロッテと15ゲーム差で独走したのが西武。打線は
秋山幸二が台頭し、投手陣は左腕の
工藤公康が最優秀防御率に輝くなど、若手の活躍が目立った。
波乱のなかったパ・リーグとは対照的に、首位争い以上にドラマチックだったのがセ・リーグだ。三番のバース、四番の掛布、五番の
岡田彰布による“バックスクリーン3連発”を号砲に、阪神が快進撃。真弓明信も一番打者ながら34本塁打を放ち、4人が30本塁打を超える猛打に最優秀救援の
中西清起がゲームを締めくくって、空前の猛虎フィーバーが沸き起こった。
新人王の
川端順、盗塁王の
高橋慶彦がいた広島は2位で食い下がったが届かず。高木、
加藤博一、
屋鋪要ら“スーパーカートリオ”の大洋はペナントレースをかき回しただけに終わって4位、最多勝、最優秀防御率で投手2冠の
小松辰雄を擁する中日は5位に沈んだ。最終的にはバースが三冠王に輝き、プロ野球で初めてパ・リーグの落合と両リーグで三冠王が誕生。21年ぶりのリーグ優勝を果たした阪神が、その勢いのまま日本シリーズで西武を破って2リーグ制となって初めてとなる日本一の座に就いた。
バースと落合は続く86年も三冠王となったが、阪神もロッテも王座は遠かった。セ・リーグは最多勝、最優秀防御率の投手2冠でMVPの
北別府学、新人王の
長冨浩志ら投手王国の広島が2年ぶりの王座に。巨人は最多の75勝を挙げながら勝率で広島を下回って2位。最優秀救援の斉藤、盗塁王の屋鋪がいる大洋は4位、盗塁王を分け合った
平野謙の中日は5位に終わった。
森祇晶監督となった西武が高卒新人の
清原和博も即戦力となって2年連続で最優秀救援の石本が抑える近鉄をかわしてリーグ連覇。最優秀防御率は阪急の
佐藤義則に譲ったが、
渡辺久信が最多勝に。清原が新人王、無冠ながらチームリーダーの
石毛宏典がMVPに選ばれている。日本シリーズは初めて第8戦にもつれる激戦となり、工藤の投打にわたる活躍で西武が辛勝。広島は引退する山本の花道を飾ることはできなかった。
写真=BBM