読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は打撃編。回答者は現役時代に巧打の選手として活躍した、元ソフトバンクの柴原洋氏だ。 Q.打つときに「インパクトの瞬間までボールをよく見ろ」と指導されますが、ボールを見るという意味がよく分かりません。例えばプロの選手などは本当にミートの瞬間までボールを見ているのでしょうか。自分は最後の瞬間まで見ていない気がしますが、それでも良い当たりを飛ばせることもあります。ボールの見方について教えてください。(大分県・17歳)
A.しっかりと見てコンタクトしたほうが確率が高まる。顔を残すと自分の形、スイングにもつながる。

元ソフトバンク・柴原洋氏
質問を見て感じたのは、この17歳の方は、小さいころに野球を始めてからこの瞬間まで、感覚だけでバッティングをしてきたのかな、ということですね。「ボールを見る意味」が分からないのですから。これは中学までの指導者の方の問題(もっといえば、質問の方が最初に所属したチームの指導者の方)で、本来はバットを握った最初の段階で、「ボールが芯に当たるところまで見なさいよ」という教えをしていなければいけません。
質問冒頭の「インパクトの瞬間までボールをよく見ろ」は、この質問の方のバッティングを見て、恐らく17歳ですから高校でしょうが、その高校の指導者の方が素直に感じた問題点なのでしょう。
確かに質問の方が言うように、僕らもものすごく速いボール、例えば160キロに迫る直球などは、ピッチャーの手を離れた後は、インパクトの瞬間まで目視することは難しく、おそらく、最後は感覚で打っていると思います。それでも打つことができるのは、それまで何千、何万スイングとしてきた中で、ある程度の軌道を想像できるからです。
でも、目視できないとしても、最後までボールを見る努力はします。なぜならボールから目を切ってしまうと、顔がブレるからです。顔がブレると、スイング軌道も正しい軌道からずれてしまいます。ボールを見ようとして顔が残るから(見えてはないかもしれませんが)、正しく体も反応してくれるわけです。つまり、自分の形、スイングができるのです。
素振りでも、ティーバッティングでもそう。指導者の方の「当たるところまでボールを見なさい」には、単純にボールをしっかりと見てコンタクトしたほうがクリーンヒットする確率が高まる意味と、顔を残す、体を残す意味が含まれているのです。小さいころにこのような指導をされてきた選手は、繰り返し行うことで意識せずともこれらのことができるでしょう。不調に陥った場合、「ボールをよく見ろ」のアドバイスの1つで取り戻すことだってできると思います。
しかし、質問の方はこの基礎が抜けてしまっている。遅いボールはいいですが(良い当たりが出る)、速いボールに対して力が入り、顔がよそを向いているかもしれません。それを見ての指導者の方のアドバイスと想像できますが、いかがでしょうか。
●柴原洋(しばはら・ひろし)
1974年5月23日生まれ。福岡県出身。北九州高から九州共立大を経て97年ドラフト3位でダイエー(現ソフトバンク)入団。11年現役引退。現役生活15年の通算成績は1452試合出場、打率.282、54本塁打、463打点、85盗塁。
写真=BBM