
157キロ右腕の大船渡高・佐々木をお目当てに、9月23日の岩手県大会準決勝(花巻球場)は、何もかもが異例の盛り上がりとなった
花巻球場は早朝から“朗希フィーバー”に沸いた。9月23日の岩手県大会準決勝。157キロ右腕・
佐々木朗希を擁す大船渡高は盛岡大付高との第2試合(12時30分開始予定)に組まれたが、10時開始の第1試合(花巻東高-専大北上高)から
大勢の観衆が詰めかけた。
本来であれば、盛岡にある岩手県営球場がメーンだが、今回は改修工事のため使用できない事情もあり、県内で2番目に収容できる花巻球場が準決勝、決勝の会場となった。
開門は30分早めて8時30分。さすがに徹夜組はいなかったが、すでに200人以上が長蛇の列を作っていたという。第1試合の開始30分後には6000人が収容できる内野席は埋まり、外野芝生席を開放している。球場に隣接する花巻東高など、球場周辺の駐車場も第1試合の3回終了時には満車となった。
189センチ右腕・佐々木は今夏の県大会で154キロを計測すると、今秋はさらに3キロ更新する157キロをマーク。今年6月に高校日本代表第一次選考30人に入ると、NPBスカウトも熱視線を注いでおり、早くも来年の「ドラフト目玉」と言われている。
岩手県高野連・佐々木明志理事長(大会委員長)によれば2001年夏に7500人を収容したデータが残っていたが、「それは(対戦)カードです」と明かし、今回のように特定の選手を目的に観戦に訪れたケースとは異なるという。2016年秋の国体でも同球場を使用しているが、「それよりも、入りました」(同)と、目を丸くさせた。「すべてが、異例です」と語ると、さらにこう続けている。
「佐々木投手を一目見たい、というお客さんがたくさんいたということでしょう。過去に2年生(秋)のうちで、あったでしょうか……。(2009年)の
菊池雄星(花巻東高、現
西武)選手もセンバツ準優勝を経て、春の県大会で(観衆が)増えたことがありましたし、
大谷翔平(花巻東高、現エンゼルス)も注目が集まったのは夏(12年)と記憶しています。まだ(全国的には)実績のない選手にもかかわらず……。記憶にありません」
さらに要因をもう一つ挙げた。今夏は金足農高(秋田)が甲子園準優勝を遂げて、空前の盛り上がりを見せた。県大会初戦から甲子園決勝まで11試合をほぼ一人で投げ抜いた150キロ右腕・
吉田輝星の快投は、記憶に新しい。
佐々木理事長は「(金足農と)だぶらせて見ているのかもしれません」と、同じ東北勢の活躍に岩手県民も刺激を受けたのではないかと、憶測を語っている。

盛岡大付高との準決勝、最後の打者となった佐々木
さて、大船渡高は勝てば東北大会進出が決まる盛岡大付高との準決勝を、5対7で敗れた。佐々木は166球の力投、四番打者としても二塁打を放ち存在感を見せたものの、無念の敗戦。2点を追う9回裏は最後のバッター(空振り三振)となり、涙を流している。
「すごく期待されているのを感じて、勝たないといけなかったが、期待を裏切る形となった。味方が頑張ってくれたので、自分が成長して、負けないピッチャーになりたい。次の試合に勝って、東北大会に行きます!!」
明日の3位決定戦(対専大北上高、10時試合開始予定)の勝者が、東北大会最後の出場枠を手にできる。佐々木は16日の県大会1回戦からこの日の準決勝まで8日間で4試合、34イニングを一人で投げている。相当な疲労を抱えているはずだが、佐々木がマウンドに立たない限り、勝利を引き寄せるのは難しい状況である。
「チーム全員、一丸となって戦う。自分はチームのために精一杯、頑張る」
負ければ大船渡高の秋が終わる24日も“朗希フィーバー”はさらにヒートアップしそうだ。
文=岡本朋祐 写真=桜井ひとし