読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。 Q.統計を取るとメジャーではフォーク(SFF)を投げるピッチャーが極端に少なく、データ上は日本人メジャー・リーガーがトップ(球数)を占めるそうです。それはなぜですか。(東京都・15歳)
A.誤った投げ方が定着して故障者が増え、それが固定観念に

フォークを武器にメジャーで活躍した野茂
1つにはSFF(フォーク)が故障につながるという考えがあったからでしょう。今のように多くの日本人ピッチャーがまだ海を渡る前、彼らはSFFを投げるときにリリースの瞬間、腕を真っすぐに伸ばし、ヒジがぶつかる投げ方をしていて、実際に故障が多かったそうです。これをメジャーの選手やコーチたちが嫌いました。ヒジがぶつかる投げ方でこの球種を多投すると、疲労骨折などの故障につながるからです。
ところが、近年は少しずつ投げるピッチャーが増えてきています。というのも、
野茂英雄(元ドジャースほか)を筆頭にSFFを投げる日本人ピッチャーがメジャーの舞台で活躍するようになったのがキッカケでしょう。日本人のピッチャーたちは、故障につながる投げ方とは異なり、フォーシームなどと変わらない、リリース後に親指が下を向くフォームで投げていて、彼らもこれに倣うようになったからです。
リリース直後に親指が下を向く投げ方であれば、ヒジがぶつかることがないので、故障のリスクも軽減します。これまでは「フォークは故障につながる」という固定観念で敬遠されてきましたが、変わりつつありますね。
固定観念ということで言えば、「スライダーを多投するとフォームを崩す」という誤った考えについても説明しましょう。このような話をよく耳にしますが、フォームを崩す原因は正しいフォーム、投げ方ではないからであって、スライダーを多投するからではないと思います。
恐らくこのようなことを言う人は、曲げよう曲げようとしてヒジが下がったり、腕の位置が落ちてくることを指しているのだと思いますが、それはすでに正しいフォームではないですよね。常識の範囲内であれば、スライダーを多投したとしても、正しいフォームであれば、基本的には問題はないと思います。
スライダーを投げる際に注意してほしいのもSFFと同じ。リリースの際に指からボールが離れた直後、フォーシームと同様にしっかりと親指が下に来るようにリリース(切る)してあげることです。変化する方向に、撫でるようにリリース(ひねる)する選手がいますが、この場合、親指が上を向き、ヒジ(の骨)に大きな負担がかかります。この投げ方でスライダーを多投すると、場合によっては疲労骨折につながることもありますので、注意してほしいですね。
●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に
楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。
写真=BBM