開幕前の逆境をはね返して

メジャー初本塁打も本拠地の開幕戦とスターらしい1本だった
エンゼル・スタジアムの右中間スタンドへ打球が吸い込まれた。その瞬間、スタンドはどよめきと歓声が上がった。現地時間4月4日、エンゼルスの本拠地開幕戦だった。「八番・DH」で先発出場した
大谷翔平が、初回二死二、三塁の場面で、メジャー初本塁打を放った。
「打者では初ホームランはホームで打てましたし、印象に残っています」と大谷。この一打はエンゼルスファンだけではなく、メジャー関係者にも大きな衝撃を与えた。
日本から来た若者が、現代野球では不可能とされている投打の「二刀流」で成功を収められるのか? ポスティングシステムで、多くの球団の入札があった中で、当初予想されていた球団とはまったく違うエンゼルスを選択。地元メディアも盛り上がりを見せオープン戦へと向かった。
だが、先発のマウンドに上がっては打ち込まれ、打席ではメジャー投手の速く動くボールにタイミングが合わず打率.125。アメリカのメディアからは「マイナーからスタートすべきだ」とまで言われ始めた。
「日本で5年間やってきたということもあり、結果を出さないといけない」とプレッシャーもある中、
イチローのアドバイスと、エリック・ヒンスキー打撃コーチとの意見交換で、ノーステップ打法に変更し開幕を迎えた。
現地時間3月29日、敵地でのアスレチックス戦で「八番・DH」で開幕戦を迎えた大谷。その第1打席の初球をたたき右前打と、いきなりメジャー初安打を記録。また、投手としては4月2日の同戦で先発デビュー。6回3安打6奪三振3失点と初登板初勝利をつかんだ。
時間を4月4日に戻す。初回本塁打を放った大谷がベンチに戻ると祝福はなく、全員が無視を決め込んだ。メジャー恒例のホームカミング儀式でもあるサイレントトリートメントを仕掛けられたのだ。
「最初は訳が分からなくて(無視されたとき)嫌われているのかなと思った。でも自分のためにその時間を使ってくれてうれしかったです」
この一発で、チームメートもファンも大谷を認めた。また3試合連続本塁打を放ち、打撃面で大きなインパクトを残した。
投打での圧倒的なパフォーマンスを見せつける

本拠地初登板ではあわや完全試合という内容を見せた
投手でもさらに大きな衝撃を全米中に与える。現地時間4月8日のアスレチックス戦。初回から三振の山を築く快投。7回まで完全試合の投球。7回一死後に左前打を打たれ大記録は逃したが、7回を投げ切り1安打1四球無失点の好投で2勝目を手にした。この「二刀流」に全米中が熱狂。各スポーツ局も特集を組むほどの盛り上がりとなり、大谷の活躍は「SHO-TIME!」と言われるようになった。
だが、6月に右ヒジの内側側副じん帯損傷が判明し、故障者リスト入り。ここで一旦、大谷フィーバーも収まったが、7月に打者として復帰するとクリーンアップを務めることが当たり前の状況になる。
その中で、相手の投手の攻めにメジャーのデータ技術の高さを実感。その対策を練ることで打撃技術も向上し、9月の1カ月間は打率3割、7本塁打を放ち手をつけられない状態にまでなった。
一方、投手では9月に復帰を果たすも、現地時間9月2日のアストロズ戦で、右ヒジに新たな損傷個所が見つかった。ここでチームの医師団からトミー・ジョン手術を勧告されることになり熟考の末、10月1日にトミー・ジョン手術を行った。
「一番悔しかったのは、ケガで戦列を離れたことです。試合に出られずにチームに迷惑をかけた」と回顧する。だが、今季の衝撃的な活躍は「ベーブ・ルース以来の」という枕詞がつくほど。また、大谷が見せたポテンシャルの高さは、地元メディアをも魅了して離さなかった。その結果、有力ライバルたちを押しのけア・リーグ新人王を獲得した。
「やはりポストシーズンに出たいです。最後までチームの戦力になれるように戦っていきたいです」と気持ちはすでに前を前を向いている。
現在はリハビリ中で順調にメニューをこなしている。11月21日に日本に帰国し、翌日会見に臨んだが、その模様がMLB公式サイト動画のトップ画面にアップされるなど、日米を超越したスター街道を駆け上がった2018年だった。
写真=Getty Images