読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は打撃編。回答者は現役時代に巧打の選手として活躍した、元ソフトバンクの柴原洋氏だ。 Q.2018年はパ・リーグに西武の山川穂高選手、セ・リーグに巨人の岡本和真選手と、若い長距離砲がホームランを量産しました。なぜ彼らは大きな当たりを打つことができるのですか? 技術的な特徴も教えてください。(東京都・15歳)
A.山川選手は日本では良いが日米野球では苦しんだ

イラスト=横山英史
前回は2人の技術的な特徴を解説しました。例えば山川選手の場合、両ワキの締まりができるようになり、泳がされても体の開きを我慢して拾うことができ、差し込まれてもワキを閉じて押し出すことができるようになった。また、岡本選手の場合はスイングがコンパクトになり、芯を食う確率が各段に上がったことで3割、30本塁打、100打点をクリアできたことも併せて説明しました。
ただし、昨年のシーズン終了後に行われた日米野球で山川選手はMLBオールスターのピッチャー相手に苦しみましたね。四番を任されながら6試合で4本のヒットを放ってはいるものの、会心の当たりは2本程度であっさりと打ち取られる場面も多く、「オリンピックに向けて日本の新たな四番に」と見ていたファンの期待を裏切る形となりました。
なぜ苦しんだのか。これはタイミングの取り方に問題があったと言わざるを得ないでしょう。山川選手は構えてから上半身、下半身ともに複雑で細かな動きを繰り返し、足を上げて、ステップをして、トップの形を作っていくのですが、ここに時間が掛かります。しかし、メジャーのピッチャーたちは、大きく振りかぶって投げてくる選手はほとんどおらず、モーションが速く、なおかつテークバックも小さいので、サイン交換から実際にリリースされるまで、日本のピッチャーに比較してかなり時間が短いのです。日本でプレーしている感覚で対峙すると、100パーセント立ち遅れることになるでしょう。実際、山川選手の打席を見ていると、明らかにタイミングが遅く、バットを振ることすら許されない打席もいくつかありました。
日本でも速いモーションのピッチャーはいて、それに対しては小さく足を上げるなどの工夫をすることで対応していましたが、メジャーのピッチャーの速さはその比ではなかったということです。もし山川選手がメジャーを目指すならば、もしくは日本代表の四番として国際大会に臨むならば、この問題を解決しない限りあの長打力を発揮することは難しいと思います。
それこそ18年にエンゼルスに移籍した
大谷翔平選手が、開幕前に足を大きく上げるフォームをすり足に変更したくらいの大胆な変更が必要かもしれません。
●柴原洋(しばはら・ひろし)
1974年5月23日生まれ。福岡県出身。北九州高から九州共立大を経て97年ドラフト3位でダイエー(現ソフトバンク)入団。11年現役引退。現役生活15年の通算成績は1452試合出場、打率.282、54本塁打、463打点、85盗塁。
写真=Getty Images