
大豊に一発を浴びた松坂だが「ストライクを取りにいったらやられるな、と思っていたらそのとおりになったので思わず笑ってしまいました」と語った
プロ野球の歴史の中から、日付にこだわってその日に何があったのか紹介していく。今回は1999年2月28日だ。
高知・春野球場は抑えようもない期待感に膨れ上がっていた。
西武対
阪神のオープン戦、西武の先発は
松坂大輔。キャンプ中の紅白戦での登板もない。正真正銘、プロの実戦で、初めて投げた。
松坂がマウンドに向かう一歩一歩に、1万3000人の観客で埋め尽くされたスタンド、そして記者席は妙な沈黙に支配され始める。そして第1球。あの灼熱の甲子園を熱狂させたあのときのまま、豪快なフォームから真ん中高めに投げ込まれたストレートだった。どよめきが、静かに広がっていく。
先発登板が正式に決まったのは、つい一晩前のことだった。松坂としても、多少の力みは仕方がない。ボールは高く、フォークのすっぽ抜けもあった。それでも、正確にはまだ高校生の新人としては、見事な立ち上がりを見せる。一番・
和田豊、続く
坪井智哉をショートへの飛球に打ち取ると、三番の
佐々木誠にはキレ味鋭いカーブで初めての三振を空振りで記録した。
そして2回、プロの厳しさも味わった。左打席には
大豊泰昭。鋭く振り抜かれたバットからの打球は右翼席へ。2球ボールが先行し、ストライクを取りに行ったストレートを狙い澄ましてはね返された。マウンドで苦笑いを浮かべた松坂は、さらに
八木裕に三塁線を破られる二塁打、
濱中治には四球と無死一、二塁のピンチを招く。
ただし、ここからが本領発揮。
今岡誠をストレートで空振り三振、
新庄剛志は二飛、さらに
北川博敏をカーブで見逃し三振とあっさり切り抜けた。
2イニング、打者10人が目安だった初登板はここで終了。打者9人、2安打、1四球、1失点。チームは1対7で敗れ、松坂には高校2年生時以来の黒星がついた。それでも奪三振3。最速148キロ。しかも、もっとも得意のスライダーを封印したままでだ。
「まだ六分くらいの出来。今日はボールが先行したので、次は先にストライクが取りたい」と松坂。
東尾修監督は「(本塁打は)プロの怖さを知って、よかったんじゃないの。思っていたくらいはやってくれた」とまずは合格点をつけた。
写真=BBM