命名の理由は不明

三塁アルプス席を陣取った龍谷大平安高では、今春も名物応援歌『あやしい曲』が流れた。津田学園高との1回戦は延長11回、同曲が流れる中で勝ち越し点を奪っている
全国デビューしてから23年目の春を迎えた。龍谷大平安高のオリジナル応援歌『あやしい曲』は今や、甲子園名物となっている。
イントロと中盤のサビ部分は時代劇・水戸黄門のテーマソングがモチーフで、バレエ音楽のボレロの曲調とが融合されている。
三塁側アルプス席はまるで、映画のワンシーンのようなスリリングな空気が流れる。さらにミステリアスなリズムであり、守備側の相手チームにとってはこの上ないプレッシャーとなる。背中から襲ってくるような重厚感が音色として、グラウンドに届いてくる。
基本的に得点圏に走者を進めた際と、ビハインドの最終回の攻撃で演奏される。同校は戦前の平安中から全国大会常連校も、80年代(当時・平安高)は春夏を通じて甲子園1回出場と低迷した。1993年に就任した同校OBの熱血漢・原田英彦監督が名門再建へ着手。左腕・
川口知哉(元
オリックス)を擁してセンバツ準優勝を遂げた97年春に甲子園デビューした『あやしい曲』。古豪復活を遂げた縁起の良いチャンステーマとして以降、HEIANの応援スタイルに定着している。
学生時代、トランペットのオーケストラ奏者だった吹奏楽部の顧問が作曲を手がけた。当時、近畿の強豪として名を馳せていたPL学園高(大阪)、天理高(奈良)、また、京都府内では京都外大西高には自前の応援曲があり、名門校・平安高にも「オリジナルが欲しい」と制作へと立ち上がったのだという。
『あやしい曲』の命名の理由は、関係者のだれに聞いても不明だ。吹奏楽部内では演奏の順番により「B」と呼ばれたこともあり、野球部員の間では「ボレロ」と言われている。2014年センバツ初優勝で、全国区として浸透。10人足らずだった吹奏楽部部員も100人以上に増え、最近では甲子園に出場する他校もカバーするようになった。しかし、龍谷大平安高のような迫力ある演奏はなかなかできない。
曲が流れる中で勝ち越し点
京都勢の春夏通算200勝がかかった津田学園高(三重)との1回戦は延長11回の接戦を制して初戦突破を果たした(2対0)。龍谷大平安高の左腕・野澤秀伍と津田学園高の右腕・
前佑囲斗による投手戦。龍谷大平安高もなかなか好機を作ることができない。試合終盤、得点圏に走者が進むとすぐに『あやしい曲』がスタート。切り替えの早さはさすが常連校だった。そして11回表の攻撃も、同応援歌が流れる中で勝ち越し点を奪っている。
これで龍谷大平安高にとっては春夏通算102勝目。この日のベンチは三塁側。昨秋の新チームから三塁コーチの下野優真(3年)は攻撃時、まさしく背中から『あやしい曲』の強力な後押しを受けていた。
「自分たちが乗っていく効果もありますが、敵チームを威圧する意味もある。自分は平安だから良いですけど、相手からしたら嫌だなと思います」
スタンドも名物応援歌を堪能し、寒さを吹き飛ばしていた。5年ぶりのセンバツ制覇へ、甲子園を「平安劇場」にしていく。
文=岡本朋祐 写真=牛島寿人