エース兼主砲兼主将

東邦高・石川(右端)は富岡西高との1回戦で2打点を挙げ、投げては1失点完投とチームけん引、大黒柱としての役割を果たしている
エース兼主砲(三番)の「二刀流」だけでも負担が大きいと思われるが、東邦高・
石川昂弥には主将の肩書もある。
21世紀枠で出場した富岡西高(徳島)との1回戦。石川はまさしく、大黒柱の働きを見せた。3回に先制犠飛を放つと、7回には貴重な追加点となるタイムリー。投げては163球の熱投で、1失点完投勝利を収めている。
東邦高は昨年も優勝候補に挙げられながら、花巻東高(岩手)に初戦敗退(3対5)と期待に応えることができなかった。すでに「2年生スラッガー」として注目を浴びていた四番・石川は4打数無安打と、甲子園の洗礼を浴びている。
1年前の反省をこう語る。
「ホームランは狙って打ったことはありませんが、どこかで意識していた自分がいて、スイングが大きくなってしまった」
1年後、教訓を生かした。森田泰弘監督は、その打撃内容に成長を感じ取った。
「3回は確実に犠牲フライを打って、8回は外野が深くポジショニングしているのを見て、大きいのを狙わずにシングルヒット。落ち着いた打席だった」
本来は三塁手であり、本人もバットで勝負したい思いが強いが、チーム事情で昨秋の新チームからマウンドに立っている。
だが、当初は上半身と下半身の連動がうまくいかず一時期、腕を下げた。ところがヒジへの影響が大きく、石川が言う「投手らしくなってきた」ところで、東海大会からオーバーハンドに戻すと、体重移動もスムーズになりボールの回転数も上がった。同大会を制して、センバツ出場へ導いたのである。
冬場は野手の練習の合間にブルペンに入って調整を重ね、センバツでの快投につなげた。背番号1を着けているが、本職はやはり、野手。一人で投げ切った充実感はもちろんあったが、それよりも、甲子園初安打がタイムリーになったことのほうがうれしかった。
次戦で試される真価
森田監督はなぜ、あえて、石川に主将の大役も任せたのか。今年のチームは、石川で勝負することを決め込んでいた。指揮官の心をそこまで突き動かしてしまう魅力とは――。
「(春夏連続出場した2016年の)藤嶋(健人、現
中日)もそうでしたが、石川もやれる人間。性格的にも大らかで責任感が強い」
さらに、決め手となった藤嶋との共通点は「辛抱強い。愚痴を言わない」と、森田監督は強調する。
「この1年間で精神的にも成長し、リーダーシップも執れるようになった」
この男と決めたら、とことん勝負をかける熱血漢の期待に、石川は応えているのである。
「先輩方がこれまで実績を残してきて、センバツは特に出場するたびに優勝が義務づけられている。平成元年に優勝。(平成最後の)今回も優勝すると、言い続けている」と森田監督は言う。
2回戦で対戦する中国大会覇者・広陵高(
広島)も過去にセンバツ優勝3度と「サクラの広陵」と言われる甲子園常連校だ。一方、春に強さを発揮してきた東邦高も、今大会を制すれば単独最多5度目のV。一つのヤマ場となる「名門校対決」で主将、主砲、エースの一人三役を担う石川の真価が再び、問われることとなる。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎