読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は走塁編。回答者は現役時代、たびたび好走塁を披露した元中日ほかの井端弘和氏だ。 Q.昨秋の日米野球の第3戦、同点となった直後の4回二死一、二塁で、一塁走者だった侍ジャパンの上林誠知選手(ソフトバンク)が、MLBオールスターチームのキャッチャー、モリーナ選手(カージナルス)のけん制で刺されました。いわゆるピックオフと呼ばれるプレーだと思いますが、なぜ刺されたのでしょうか。防ぐ手立てはありますか。(福岡県・28歳)
A.詰まっているときは後方のランナーは注意

イラスト=横山英史
私は侍ジャパンの内野守備走塁の担当コーチで、この大会でも一塁ベースコーチを担当していますから、大会前にモリーナの映像は、時間を割いてチェックしていました。肩の強いキャッチャーで、MLBの公式戦でも、たびたびファーストへけん制を投げるものですから、試合前のミーティングでも確認をしていました。まして日本は足を使うチームであることは知られていますし、ランナーが2人以上いて詰まっているとき、それも、ファーストがベースを離れているときは、投げてくる可能性があるので頭の片隅に入れておこうと確認していたのですが……まんまとやられてしまいましたね。
質問の方が言うように、これはいわゆるピックオフプレーというもので、守備側に立って考えると、プロに限らず、アマチュアのカテゴリーでも有効なプレーだと思います。ランナーが単独一塁の場合、ファーストがベースについているケースが大半で、ピッチャーからのけん制、キャッチャーからのけん制には敏感になりますが(仮にファーストがベースから離れていても動きをケアするものです)、質問のケースのようにランナーが詰まっている場合、特に後方のランナーにはスキが出やすくなります。
ランナーは守備側の心理として一、二塁ならば、二塁のランナーに注意が行っているだろうと考えるのは当然で、実際には守備側もそうだと思います。そのランナーの思い込みを逆手に取ったのがピックオフプレーで、このケースではファーストがベースにつかないのもセオリーではあるものの、キャッチャーからのサインに従って投球と同時にファーストのベースカバーに素早く入りました。
ファーストが後ろに守っていると、一塁ランナーは通常よりも少しだけ、大きめにリードをとるものです。それ自体は決して悪いことではなく、当然の判断。今回の日米野球で問題なのは、上林選手の頭からピックオフがあることが抜けていたこと。キャッチャーが捕球後、ファーストに投げてくるなど考えもしなかったのではないでしょうか。
また、必ず一本全力で帰塁することは基本中の基本。それを怠ってしまったことも挙げられます。今回のミスはよい経験と教訓で、チームとして今後に生かさなければいけません。国際大会は一発勝負ですからね。
●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に
巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。