投手らしからぬ投手

ルーキーイヤーの上原。すごかった
巨人の
上原浩治が引退した。44歳か、よく頑張ったね。
彼が巨人に入団したのは、俺と入れ替わり。俺が1998年限りで引退し、上原は99年だった。
1年目は、本当にすごかった。いきなり20勝で沢村賞も確か満場一致だったと思う。
俺は解説者1年生だったが、もう文句のつけどころなし。最初から完成されていた。
唯一の文句は、あいつが投げると試合が早く終わることだった。
一度、横浜─巨人戦の解説をしたとき、試合が2時間もかからなかったことがある。解説者1年目だし、話したいことをいろいろ準備したのに、ほとんど話せなかった。制球がいいうえに、テンポがよく投げ込んでいたからね。
そのあと先発から抑えに回り、メジャーでも活躍。通算100勝100セーブ100ホールド。引退会見では「すべて中途半端だった」と言っていたけど、そんなことない。ほんとすごいと思う。
俺が1年目の彼に抱いていた印象は「投手らしくない投手だな」ということ。要は完璧すぎで、マシンみたいだった。
決して150キロが出るわけではないが、上背があって角度があり、後ろが小さいフォームで打者はタイミングが取りづらい。ストレート、フォークとも制球力がよく、常にストライク先行、投手有利のカウントで勝負できる男だった。
あとはメンタル。先発投手は、たいてい立ち上がりが悪い。なかなかリズムが作れず、球数を投げることで払拭しながら調子を上げていくことが多い。
なぜか、分かる?
調整不足のときもあるが、試合の中で、自分の調子を確かめているからでもある。
「きょうは打たれるんじゃないか」という不安もあるし、逆に投手というのは、お山の大将というか、ロマンチストが多いんで、「ブルペンではこの程度だったが、試合になればまた違うはず。もっとピッチングができる!」という思いが、ついつい力みになる。
上原は違う。たぶん、不安は抱えていなかったんじゃないかな。自分の状態を判断して「きょうはこの程度か。じゃあ、こう攻めていこう」と、冷静に決めていたんだと思う。だから初回から9球くらいで簡単に抑え込んでしまう。
このタイプの選手は逆境にも強いと思う。自分の状態が悪くベストを出せなくても、その中でベターのピッチングを見極められる。これが投手という人種には意外と難しいんだ。
ただ、引退後を聞かれ、「いまは何をするか決めてない。どうしようかなが本音」とか「まずは家族のいるアメリカに帰って」とかあったが、それはどうかな。
正直、もったいない。
選手としてじゃないよ。いまの巨人投手陣はボロボロ状態。自信を失っている選手も多いはず。上原の経験やアドバイスがすごく役に立つはずだ。
しかも、まだシーズン中だし、こうなれば、球団も
イチローじゃないが、スペシャルアドバイザーとかなんとか肩書つけて、選手を見てもらったらどうかな。
それが巨人優勝への追い風になるかもしれないし、上原にとってもジャイアンツへの恩返しになるはずだ。
原辰徳監督、どうですか。
写真=BBM