現在、『夏 甲子園2019全国49地区総展望』が発売中だ。同誌の中で令和元年の夏、初陣を飾る指揮官を取り上げているが、週刊ベースボールONLINEでも公開しよう。 劣勢の時こそ明るく

福島は昨夏まで聖光学院高が戦後最長の12年連続出場中。名将がこの記録をストップさせようと意気込む
宮城の強豪校・仙台育英高を率いて春6回、夏13回の甲子園出場。2001年春と15年夏には全国準優勝を経験した佐々木順一朗氏が昨年11月、学法石川高(福島)の監督に就任した。
「学法石川はもっと、
ヤンチャで言うことを聞いてくれないかと思っていましたが、実際は素直な選手ばかりでした」
そんな第一印象を抱いた佐々木監督がチームに課したのは「笑顔」「反応」「変化」。なかでも根幹は「笑顔」である。
「選手たちには『劣勢の時こそ明るく』と言い続けてきました。笑っていないと、良いことも起こらないですからね」
この指示に対し、桑山武冴志主将(3年)は「春になって、練習試合を積み重ねていくなかでできるようになってきました。今は、どんな展開の試合でも笑顔でプレーしていると思います」と話す。
また、佐々木監督は選手の笑顔を絶やさないために、「2点差までなら、なんとかなる」と言い聞かせてきたが、その言葉どおりに今春の福島西高との県大会準々決勝では、9回裏に2点を奪って4対3でサヨナラ勝ち。東北大会でも佐々木監督の母校・東北高との初戦で9回表に試合をひっくり返し3対2で勝利を飾った。
「東北戦は1点差でしのげたのが、逆転につながりました。県大会の決勝(対東日大昌平高)は1対2のまま負けたのですが、逆転できたということは階段を一つ上がってくれたのかなと思います」
イチローを引き合いにした言葉
選手の「反応」については、一冬を使って浸透させてきた。
「例えば、ノックでエラーをした選手が暗い顔をしていたら、周りの選手も声をかけづらいですよね。だから、当たり前の反応をせずに、エラーをした選手がむしろ一番大きな声を出すようにさせたんです」
最後の「変化」は、今年3月に現役引退した
イチロー(元マリナーズほか)を引き合いに出して諭した。
「世界で最もヒットを打っているイチローでさえ変化をしている。良いことがあると変えるのが怖くなるが『変化をしないと成長もない』と伝えました」
こうして3つのポイントを基に、チームを改革してきた佐々木監督は手応えを感じている。
「これまでは四番の藤原(涼雅、3年)がダメなら終わりだったんですが、藤原も後続を信頼して無理に引っ張らなくなりましたし、藤原が打てなくても簡単には終わらなくなった。今はゲーム後半に得点を取れるチームになってきたので、あとは前半をいかに頑張るかが、カギになってくるんじゃないでしょうか」
選手には「這ってでも、甲子園へ行くと言っている」と明かす佐々木監督。春季大会では試合後、勝利チームの校歌が流され「最近になって、校歌といったら、学法石川の校歌が頭にこだまするようになりました」と笑う。すっかり、同校に慣れ、選手に佐々木イズムが浸透している。
昨夏まで福島は聖光学院高が戦後最長12年連続出場の独壇場だ。1999年夏以来の甲子園へ名将の下、学法石川が新風を吹かせそうな予感が漂う。
PROFILE
ささき・じゅんいちろう●1959年11月10日生まれ。宮城県出身。東北高では四番・エースで2度の甲子園出場。早大、電電東北でプレーした後、93年から仙台育英コーチ、95年から監督。春夏を通じて19回の甲子園出場で準優勝2回(通算29勝)、2017年12月に退任し、昨年11月に学法石川高の監督に就任。
文=大平明 写真=BBM