
明大のエース・森下は早大3回戦で敗戦投手になった。この悔しさを、次カード(10月5日から)の法大戦にぶつける
心の安定。
明大・
森下暢仁(4年・大分商高)が最終学年にして、大きく飛躍したキーワードだ。
高校時代からドラフト上位候補として騒がれたが、プロ志望届は提出せずに明大へ進学。かねてから潜在能力は誰もが認めるところ。しかし、3年までは「好投手」だったが「勝てる投手」ではなかった。だが、主将就任を機にチームを背負う自覚が芽生え、精神的な安定が投球につながった。今春はリーグ制覇に導くと、38年ぶりの日本一。名実ともに「大学No.1」の立場を不動とした。
心身ともに充実した秋。死角は見当たらないかと思われたが再び、森下に試練が訪れた。
1勝1敗で迎えた早大3回戦は1対1と緊迫した展開で、9回表を迎えた。二死一、二塁からの三ゴロを明大の三塁手・北本一樹(4年・二松学舎大付高)が失策を犯し、満塁とピンチを広げる。「味方のミスをカバーするのが、エースとしての仕事」(森下)。ただ、その“対象”が北本であっただけに、平常心を保てなかった。これまで幾度となく主将・森下を助けてきた副将・北本。負担の多い投手キャプテンであり、副キャプテンのサポートなくして今日の森下はなかった。
「正直、自分の中では押していくしかなかった……。抜いていれば……。まだまだ実力不足です」
何とかしたい。気持ちはよく分かる。しかし……。直後の「力勝負」が裏目と出てしまう。早大・
小藤翼(4年・日大三高)に149キロのストレートをとらえられ、左中間へ走者一掃の適時二塁打を浴びる。明大にとって3点ビハインドはあまりに重く、1対4で敗れた。明大・善波達也監督は主将をかばう。満塁の場面で、マウンドで指示を送っている。
「最後はムキになったかな……。(北本がエラーしたので)『何とかしてやれ!』と。その言葉が、エネルギーをかけ過ぎたのかもしれない。私のかけた言葉が気が利いていなかったのか、と」。指揮官は無念を口にしたが、負けこそ、人を成長させる契機になる。
心は熱く、頭は冷静に――。
春秋連覇を目指す明大は残り3カード。2019年のMEIJIの「顔」である主将・森下と副将・北本が、この黒星をどう受け止めるのか。中4日で10月5日からは、この秋、開幕4連勝と好調の法大戦を控える。学習能力が試されるときがやってきた。
文=岡本朋祐 写真=菅原淳