
プロスペクト選手を育て上げ、生え抜きで世界一を目指すドジャース。24歳のスミス(左)も正捕手として今季レギュラーをつかんだ。野茂英雄がかつて背負った「16」を着け、生え抜きスターとなりそうだ
7年連続ナ・リーグ西地区優勝を決め、31年ぶりの世界一を目指すドジャース。さすがだと思うのは本来選手層が厚かったチームに、2016年のドラフト組をはじめとする若手たちがマイナーから次々に上がってきて、プレーオフメンバーの選考を難しくしていることだ。
シーズン中、彼らをトレードで放出し、実績あるベテラン選手を補強する選択肢もあったが、若手の潜在能力に懸けた。16年組とは一巡20番目指名の21歳、ギャビン・ラックス遊撃手兼二塁手。一巡32番目の24歳、ウィル・スミス捕手。三巡の22歳のダスティン・メイ投手。そして九巡の25歳、トニー・ゴンソリン投手である。
ドラフト選手がわずか3年で4人もメジャーへと上がることはなかなかない。最初に上がったのはスミス。5月27日に昇格し、6月1日にフィリーズ戦でサヨナラ本塁打を放った。6月23日もロッキーズ戦でサヨナラ本塁打。このときは15年ドラフト組の26歳、マット・ビーティ、14年組の23歳、アレックス・バーデュゴに続き、3日連続でルーキーのサヨナラ本塁打で勝つという、MLB史上初の快挙を成し遂げた。
スミスはその後、1カ月マイナー落ちしたが、7月26日に再昇格、翌日6打点の大暴れでレギュラーの座を勝ち取った。なぜすぐに活躍できたのか。実はドジャースは昨季終盤、彼にインターンをさせていた。
9月9日に3Aのシーズンが終了すると13日に合流。40人枠に入れてプレーさせるのではなく、チームに帯同しミーティングや練習に参加させた。プラス、現打撃コーチのロバート・バンスコヨックが球団のコンサルタントだった16年に、入団したばかりのスミスに会い、J.D.マルチネスはじめフライボール革命で成功した打者たちのビデオを見せ指導を始めた。
15年組のビーティもマイナー時代から彼の指導を受けた。通常は、メジャーの打撃コーチは、マイナーの選手のことはよく知らず、マイナーのコーチやスカウトのレポートを読み、上がってきた選手と働き始める。だが、ドジャースの組織は風通しが良い。若手に能力があっただけでなく、コーチがすでに知っており、若手がすぐにメジャーの環境になじめたのが、即活躍につながったのだと思う。
ビーティも控え野手でプレーオフはベンチ入りする。ラックスは高卒の若手。19年は2Aと3Aで打率.347、26本塁打、OPS1.028。7月31日のトレードデッドライン前、多くの球団が彼を欲しがったが、手放さなかった。9月2日に昇格となり同日にデビューして2安打。プレーオフも右投手が相手のときは先発しそうだ。
ゴンソリンは6月末、メイは8月初めに昇格、2人合わせて10試合に先発登板。そしてプレーオフはリリーフ投手としてベンチ入りを目指す。14年オフにアンドリュー・フリードマン編成本部長が就任して以来、ドジャースでは大物選手のトレード話が何度も浮上して、交換相手に当時のトッププロスペクト、コーリー・シーガー、フリオ・ウリアス、コーディ・ベリンジャー、アレックス・バーデュゴらの名前が囁(ささや)かれた。
だがトレードはせず、彼らを育てチームの主力に成長してきた。今年もそうだ。風通しの良い組織力で生え抜きをしっかり育て、世界一のチームを目指している。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images