「感情のコントロール」の意識

法大・宇草孔基は広島からドラフト2位指名。俊足と好打が武器の外野手である
2020年、V奪回を目指すカープに頼もしきスピードスター候補が加わる。
広島からドラフト2位で指名を受けた法大・宇草孔基(4年・常総学院高)だ。
10月17日の「運命の日」を経て以降、初めてのリーグ戦となった東大1回戦。チームは2対0で先勝したが、「一番・右翼」で先発出場した宇草は4打数無安打に終わっている。
今秋は打率1割台と苦しんでいるが、決して下を向かない。そこに、プロとして生きていけるメンタルの強さを感じた。
「結果が出てなくて悔しいです。でも、次につながると信じて、取り組んでいます。すべてを受け入れて、自分がやるべきことをやる。それが次へ向けた『準備』へとつながる。そこは絶対、ブレずにやっていきたい」
宇草は常総学院高時代には高校日本代表でもプレーした逸材だったが、入学以降は苦労を重ねた。レギュラー奪取は3年秋という遅咲き。法大は選手層が厚く、チーム内競争を勝ち抜かなければ定位置を獲得できない。かつての宇草は、目の前の結果に一喜一憂していたという。つまり、周りのことばかりを気にしてしまい、自身のことに集中できていなかった。大学卒業後の進路へ向けては、3年秋が勝負。宇草は同夏の練習期間に「感情のコントロール」を意識すると、プレーも変わった。
同秋は打率.333、2本塁打、7打点で12季ぶりのリーグ優勝に貢献すると、今春も打率.339、4本塁打、10打点で初のベストナインを受賞。大学日本代表として出場した日米大学選手権でも、一番打者として3大会ぶり19度目の優勝に貢献した。
50メートル走5秒8に加え、シュアな打撃に着目したのがカープだった。担当スカウトの広島・
尾形佳紀氏は明かす。
「大学日本代表候補合宿から良いところを見せ、日米大学選手権前のウチ(広島二軍)との強化試合(松山・マドンナスタジアム)でも、良い姿を見せた。ファームのコーチからも好印象だったと聞いています」
広島は第1回入札で、明大・
森下暢仁(4年・大分商高)の「単独指名」に成功。仮に森下が複数球団の競合による抽選となり、クジを外した場合は社会人投手を検討していたが、次の段階へと移れる展開になった。
尾形スカウトは言う。
「宇草はどうしても、獲得したかった。野手ではトップ評価だったんです」
スカウト統括部長が描く青写真
外れ1位でも抽選を外したケースでは、宇草は第3回入札での1位指名の可能性もあった。2位指名はウエーバー順。広島は全体の17番目で宇草を指名した。広島・
苑田聡彦スカウト統括部長によれば、最大の「補強ポイント」。次世代の外野手育成こそが、チームとしての明確なテーマとしてあるのだ。
苑田スカウト統括部長は青写真を描く。
「(来年2月の)一軍キャンプでプロの雰囲気に慣れてもらい、今年の小園(海斗)のように、オープン戦にも帯同してコーチがどう見極めるか。ペナント開幕後はファームで実戦経験を積んでいく選択肢もありますが、一軍ならば代走で起用する手もある。いきなり、レギュラーというのは難しいですからね」
ドラフト後に「周囲の目」は変わったか? という質問に対して、宇草は冷静に、現実を見つめる。
「指名されても、周りが言っているだけであって、自分がやることは変わりません。気持ちは何も変わらないです」
長丁場のプロ野球は、それこそ、一喜一憂している時間はない。すぐに次の試合が控えており、切り替えがポイントだ。宇草にはすでに、困難に直面しても、乗り越えていけるだけのメンタリティーを持ち合わせている。
カープのドラフト2位、要注目である。
文=岡本朋祐 写真=桜井ひとし