本来の野球を徹底

11月16日のスーパーラウンド最終戦で韓国に勝利した侍ジャパン
■プレミア12「スーパーラウンド」
日本10対8韓国=11月16日(東京ドーム)
すでに決勝進出(11月17日、東京ドーム)を決めているチーム同士による一戦(16日、東京ドーム)は、両チーム計26安打の乱打戦となり、日本が14安打を放って10点を奪い、韓国を振り切った。
最も重要なのは、決勝で勝利しタイトルを獲得すること。勝っても負けても影響の少ないこの試合で、手の内をさらけ出すのは得策ではない。当初、
稲葉篤紀監督も難しさを口にしていたが、韓国の姿勢ははっきりしていた。
試合後、記者会見場に姿を現した韓国の金卿文監督はこの試合の意義を問われ「勝てれば良かったですが、重要な試合が明日に控えています。選手のコンディションを第一に考えながらの試合でした」。事実、先発投手を当初の予定から変更し、投手陣では最年少の20歳左腕・李承鎬を立てている。スタメンにはこれまで出場の少なかった選手が名を連ね、レギュラー陣では4人が起用されただけで、休養を重視。敗戦も想定のうちだった、ということだろう。
では決勝前夜の“前哨戦”の、日本の勝利には意味がなかったのか。稲葉監督は「今日の勝ち負けが明日につながっていくか、どうかは……」としつつ、「今日の1試合を明日にどうつなげるかが大事でしょう。(日本は)しっかりとした野球ができました。ボールを選ぶところはしっかりと選び、後ろにつなぐ野球を選手たちがやってくれました。2日間空いたので、試合勘、試合への入りを大事にしました。早い段階で選手交代をし、なかなか打席のなかった選手に試合の雰囲気に慣れてもらおうと。明日は総力戦になりますので」と手応えを口にしている。
試合前のミーティングでは「これまでどおり、一戦必勝」と選手に対して目の前の勝利にこだわるよう呼びかけ、タイトル獲得に向けて準備も怠らなかった。
「雑に行かないでおこうと。とにかく送るところはしっかり送って。(サインで)進塁打を打たせたりもしました。明日(決勝)に向けて、というところでは(やりたい)ことはやれたと思います」
例えば大量6点を奪った3回には、先頭の
坂本勇人が二塁打で出塁した直後、三番に座る
丸佳浩が投前にバント。これが内野安打となり、チャンスを広げた。この回は四球を挟んで6連打などで一挙6点を奪ったが、一死一、三塁から代走の
外崎修汰には盗塁を試みさせるなど、ベンチが積極的に動いた。直後の4回表に5点を許し、思わぬ点の取り合いとなったこともあるが、以降も2度の犠打に盗塁、四球を絡めて1点を奪いに行く本来の野球を徹底、追いすがる韓国を突き放した。
決勝への備え
一方、バッテリーはしたたかに韓国打線のデータを収集。先発の
岸孝之が試合前、「俺に気にせず配球してくれ」と翌日の決戦に向けて、データ収集の協力を申し出たことを会沢翼が明かしているが、結果的に4回7安打6失点も、「どのコースを振ってくるだとか、キャッチャーとバッテリーコーチが試合中にやり取りをしていました」(稲葉監督)と決勝へ向けて有力な情報を引き出した。
野手は15人全員を起用して決勝へ備えたが、投手陣に関しては、8回を迎えた時点で2点差も、これまで勝ちパターンで登板してきた
甲斐野央、
山本由伸、
山崎康晃らを温存。用意周到に勝利を手にしたかっこうだ。
運命の一戦に向けて稲葉監督は「決勝という素晴らしい場所で悔いがないように全員で結束力を持って戦い抜きます」。決勝は打線も投手陣も総力戦で臨む。10年ぶりの世界一を手にし、東京2020オリンピックに弾みをつけられるだろうか。
文=坂本匠 写真=山口高明