17年だけでなく18、19年シーズンも調査をすることを明言したマンフレッドMLBコミッショナー。この調査を速やかに処理できるのだろうか⁉
現地時間11月21日、テキサス州
アーリントン。ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーはオーナー会議の総括会見で「サイン盗みの調査は17年だけでなく、18年、19年についても行っている」と明かした。
ネットメディア「ジ・アスレチック」の11月12日のスクープで17年、世界一に輝いたアストロズがセンターカメラで捕手のサインを盗み、打者に次が変化球か真っすぐかを教えていたことが暴かれたが、その年だけにとどまらず、この3年間の違反を徹底的に調べ上げる。しかも「アストロズだけが、テクノロジーを使ってサインを盗んでいたかどうかは定かではない」とし、他球団に調査が及ぶ可能性もほのめかした。
そもそも17年9月にレッドソックスがアップルウォッチを使い
ヤンキースの捕手からサインを盗んだと発覚したとき、「また同じようなことがあったら、厳しい処分を科す」と30球団に警告を発していた。しかしながらアストロズはその6日後のホワイトソックス戦でサイン盗みを行った。コミッショナーは「警告を発しても、真剣に受けとめられなかったようだ」と振り返っている。
サイン盗みは野球の長い歴史の中で行われてきたからお互い様という認識があったのかもしれない。しかしながら肉眼や双眼鏡ではなく、新しいテクノロジーを使って組織ぐるみでとなると、本格的にやっているチームとそうでないチームの間で著しく不公平になる。そこで17年9月に線を引き、ルールとしてサイン盗みにテクノロジーを使ってはならないと伝えたが、十分ではなかった。
今回のことはステロイドが蔓延していた90年代に似ている。「誰誰がやっている」という噂が流れ、「それなら自分も」となり広まった。薬物のときは選手会がプライバシーを理由に検査をこばんだのも悪い流れを作った。結果、球界内だけでは浄化は進まず、下院の公聴会に大物選手が召喚されたり、ジョージ・ミッチェル元上院議員に実態調査を依頼するなど、長い時間をかけ、ようやく沈静化したのである。
コミッショナーは「ルールを破ることで、試合の結果を変えてしまう。競技の高潔性に関わることで最も深刻な問題。徹底的に調べる」と言うが、難しいのは、実際にどこまで調べられるかだ。例えば19日の時点では、「アストロズ以外は考えられない」と、1球団の調査と処分だけで終わる気配だった。
しかしながら、アストロズは自分たちが標的にされたと思っているとも考えられ、仮に彼らが、他球団も盗んでいたというような証拠を次々に出してくれば、1球団だけの処分では済まなくなる。そしてコミッショナーは「野球界のために働いている」というが、実際にはオーナーに雇われている立場。調べた結果、かなりのチームがやっていたとしたら、果たしてたくさんの球団に厳しい処分を課すことができるのだろうか。
コミッショナーは「(一連の調査は)春のキャンプが始まるまでに終わらせたい」と語ったが、具体的にどんな処分を下すのかも含め、なかなかすんなりとは行かないと思われる。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images