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中京大中京高・148キロ右腕・高橋は今秋の明治神宮大会で初優勝へ導いた。「秋日本一」で、一つ目の全国タイトルを手にしている(写真=菅原淳)
2019年秋。最もブレークした高校生を一人、挙げるとするならば中京大中京高の右腕・
高橋宏斗(2年)で異論はないはずだ。
愛知県大会、東海大会、明治神宮大会を制して「秋日本一」の称号を得た148キロ右腕。明治神宮大会2回戦で対戦した甲子園通算51勝の明徳義塾高・馬淵史郎監督は「ストレートは(横浜高当時の)松坂(
松坂大輔、現
西武)よりも上。球が低いし、スピードガン以上の威力がある」と、相手エースを褒め称えている。
「馬淵監督のコメント? 見ました。でも、そんな実力ではない。恐縮するだけです」
控えめではあるが、野望は大きい。
「世代No.1投手を目指しています」
東海大会Vで、来春のセンバツ甲子園の選出は「当確」の立場にある。大会本番では自己最速を大幅に更新する「155キロ」を目指しているという。なぜ、この数字なのか?
「明石商・中森(
中森俊介、2年)投手の最速は151キロ。一番になるためには、150キロを目指しているようではダメなんです」
中京大中京高は全国大会で春4回、夏7回の優勝を誇り、最多となる133勝をマークしている超名門。伝統校をけん引する大黒柱は「4冠を目標にしています」と前を向く。つまり、秋の明治神宮大会、春、夏の甲子園、そして秋の国体の「グランドスラム」を狙っているというのだ。まずは「1冠」をクリアしたが、その内容にも強いこだわりを持っている。
「圧倒的な力で勝ちたい」
明治神宮大会初優勝後、明らかに周囲の見る目は変わった。電車通学する際にも、一般の人から声をかけられる場面も増えたという。
「周りからは、自分たちが思っている以上の評価をされている。期待に見合うだけの結果を残し、常に見られているという責任と、人間性がなくてはいけない」
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インタビューに答える中京大中京高・高橋(写真=田中慎一郎)
17歳とは思えない充実のメンタルに加え、ポテンシャルの高さ。すでにNPBスカウトも「2020年の上位候補」にリストアップしているが、高橋は希望進路をこう語る。
「大学で、東京六大学を目標としています」
慶應義塾高(神奈川)、慶大を通じて右腕投手として在籍した兄・伶介さんの影響が大きい。今秋の明治神宮大会で、慶大は19年ぶり4度目の優勝。高橋は中京大中京高の試合の合間に、慶大のゲームを見た。8月には全早慶戦(現役とOBによる混成チーム)を、地元開催のナゴヤドームで観戦している。
「応援を含めて、大学野球の中でも別格。4年間で成長する場だと思う。大学を経て、即戦力で活躍できる選手になりたい」
兄が成功した姿を間近で見ており「人生において慶應はいろいろな面でプラス。高卒で(プロへ)行ってつぶれたら……。怖い部分もある」。現実路線になるのも、当然の流れだ。
現状では大学進学が最優先の選択肢も、プロが「ゼロ」になったわけではない。高橋の中での2つの条件がある。
「プロでやっていく実力、自信がないことには挑戦できない」
実力とは「155キロ」であり、自信とは「4冠」に尽きる。この2つの目標を達成できれば、考えが変わる可能性も少なからずある。
全国のライバル校を「圧倒する」ため、ひたすらレベルアップに努める高橋。大学進学か、それとも、プロ志望へシフトチェンジすることはあるのか――。すべてはこの一冬の取り組み次第で、人生は大きな岐路を迎える。
文=岡本朋祐