ファンが盛り上がる「シャークダンス」
1年前の今頃、巨人はストーブリーグの主役だった。
原辰徳が3度目の監督復帰、FAで
広島から
丸佳浩、
西武から
炭谷銀仁朗を獲得。さらに
中島宏之、
岩隈久志といったベテラン勢に加え、前年メジャー20発男の
ビヤヌエバや抑え候補の
クックも補強した。一方で年末年始には
内海哲也や
長野久義といった功労者が人的補償で流出。まさに激動の数カ月である。
それが、このストーブリーグではFA争奪戦に立て続けに敗れ、
山口俊のポスティング制度を利用してのブルージェイズ移籍がニュースになったくらいだ。5年ぶりのリーグ優勝の余韻に浸るかのような例年に比べたら静かなオフだが、その状況でも巨人らしい補強もあった。ジェラルド・パーラの獲得だ。19年にメジャー・リーグのナショナルズでワールド・シリーズ優勝に貢献した、懐かしい言い方をすれば現役バリバリの大リーガーの巨人入り。2020年、“世界一男”が東京ドームにやってくる。
メジャー通算1312安打(打率.276)、88本塁打、522打点、96盗塁。外野手としても評価は高く、11年と13年にはゴールド・グラブ賞を受賞。一塁も守れ、ベネズエラ生まれでまだ32歳と若い。19年はジャイアンツとナショナルズで計119試合に出場。打率.234、9本塁打、48打点、OPS.684の成績を残し、登場曲『ベイビー・シャーク』が球場で流れると、客席が音楽に合わせ「シャークダンス」やサメの着ぐるみで盛り上がる様子はMLB公式Twitterでも取り上げられ、日本の野球ファンにも広まっていた。
一昔前まで来日するほとんどの外国人選手は未知の存在で、小さな写真とわずかな文字情報でそのプレーを想像するしかなかったが、今はあらゆるネット上の動画やSNSで日本に来る前からその選手の特徴がファンにも分かる。新日本プロレスのロンドン興行で鈴木みのるが現地ファンに大人気だった……のと同じような現象がNPBでも起こっているわけだ。あらゆるジャンルで世界がスーパーフラットになりつつある。
悩まされた“五番不在”解消へ

2019年はジャイアンツ、ナショナルズで計119試合に出場し、打率.234、9本塁打、48打点をマーク
さて、そんな大物メジャー・リーガーに原巨人が期待するのは、もちろん「五番打者」である。今季も巨人打線は自身最多の40本塁打で令和初のMVPに輝いた二番・
坂本勇人、外野手部門で4年連続ベストナインと7年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞の三番・丸佳浩、2年連続30発をクリアした四番・
岡本和真の中軸は不動だろう。だが、昨季はその後ろを打つ五番打者で苦労した。開幕3連戦は
陽岱鋼を起用も固定できず、
大城卓三39試合、
亀井善行38試合、
阿部慎之助35試合、
ゲレーロ21試合と最後まで日替わり五番打者に悩まされた。クライマックスシリーズと日本シリーズのポストシーズン計8試合のスタメン五番は、阿部の6試合、ゲレーロの2試合。しかしご存知のとおり、勝負どころの代打の切り札兼一塁手として存在感を見せた背番号10は現役引退、左翼を守り21本塁打のゲレーロも退団した。つまり、パーラに求められる役割はこの2人に代わる新五番打者である。
外野陣に目を向けると、レギュラー確定は中堅の丸のみ。昨季131試合に出場してシーズン途中から一番打者として陰のMVP級の働きを見せた亀井も7月で38歳。恐らく、代打率.394(30打席以上の起用では12球団トップ)をマークした右の陽岱鋼とともに、背番号9は昨季まで中大の先輩・阿部が務めた「左の代打の切り札」で起用されることも増えるだろう。となると、パーラがシーズンを通して外野のレギュラーを張れるか、日本野球に適応できるかどうかが、2020年の原巨人の命運を握っているようにすら思える。
バーフィールド、グラッデンたちのように
もうひとつ期待されるのが、実績充分の元大物メジャー・リーガーがもたらす、若手選手への好影響だ。90年代前半、元メジャー本塁打王の
ジェシー・バーフィールドや、ツインズ時代に2度の世界一に輝いた
ダン・グラッデンが巨人でプレーしたが、彼らにかわいがられたのがプロ入り間もない
松井秀喜だった。ゴールド・グラブ受賞経験のあるバーフィールドから外野守備をマンツーマンで教わり、グラッデンからは「アイツはこれからの日本の野球をリードする役目があるんだよ。だから、今の内からオレのすべてを伝え残したい」と片言の日本語と英語でゴジラは走塁や打撃のコツを伝授された。
80年代にはメジャー通算314本塁打の
レジー・スミスが、「ティーチャー」なんてあだ名で呼ばれるくらい当時若手の原辰徳や、のちに背番号7を継承した
吉村禎章へアドバイスを送った。今の巨人にも昨季高卒1年目でイースタン・リーグ首位打者に輝いた
山下航汰という逸材がいるが、パーラと同じ左打者で、打撃に外野守備も含め学べる点も多々あるはずだ。背番号はパーラが88、山下が99とそれぞれ活躍すれば新コンビグッズ展開も可能そうである。
そう、球場やグッズの盛り上げ役でもこの新助っ人に懸かる期待は大きい。シャークダンスはもちろんサメとジャビットのコラボグッズ、さらに女性ファンに人気のシャークパペット展開もあるかもしれない。「ベイビー・シャーク」と「ビッグベイビー」こと岡本和真のダブルベイビー共演も待ち遠しい。
今季は阿部慎之助のお立ち台での代名詞「最高で~す!」が聞けなくなるが、その穴を埋めるべくパーラの「サメで~す!」なんて決め台詞が東京ドームに鳴り響くことを楽しみに待ちたい。
文=プロ野球死亡遊戯(中溝康隆) 写真=Getty Images