
2013年8月、長野中・五十幡(現中大4年)は陸上競技の全日本中学選手権200メートル決勝を制した(右は2位の城西大城西中・サニブラウン)
やはり、歴史に残る短距離走選手だった。
2013年8月21日、瑞穂公園陸上競技場(愛知)。
全日本中学校陸上選手権大会の200メートル決勝を制したのは、球児であった。
埼玉・行田市立長野中の
五十幡亮汰(3年、現中大)の優勝タイムは21秒81。0.04秒遅れてゴールしたのは城西大城西中・サニブラウン・アブデル・ハキーム(3年、現フロリダ大)だった。

200メートル決勝の翌日に行われた100メートル決勝は、3選手によるデッドヒート。結果的に五十幡が「2冠」を達成した(手前の左はサニブラウン、右は出雲第一中・花田)
翌22日に行われた100メートル決勝。
出雲第一中・花田達也(3年)はゴール直後、五十幡とサニブラウンに対して、健闘を称えて握手をしている。五十幡は2人の背後にいる(写真)。このデッドヒートのレースを制したのは、第1レーンの五十幡だった。
優勝 五十幡 10秒92
2位 花田 10秒93
3位 サニブラウン 10秒97
中学日本一。しかも、堂々の2冠である。
五十幡の本職は野球選手。東京神宮シニアでプレーする中で、体を鍛えるために陸上部に所属していたという。
7年前の夏、現在の100メートルの日本歴代1位(9秒97)のサニブラウンを上回ったのである。五十幡にとっては、あくまでも「野球のための陸上」であり、佐野日大高でも迷いなく、白球を追った。
中大で最終学年を迎えた今年は、ドラフトイヤー。注目選手として取り上げられるたびに「サニブラウンに勝った男」と紹介される。五十幡はその事実を原動力にプレーしてきた。
30季ぶりに東都大学リーグ優勝に貢献した昨秋は、リーグ最多9盗塁。走塁技術も向上しており、仰天のスピードは、だれにも止められないレベルに到達している。左打席からのシュアな打撃も非凡。バントをうまく転がせば、高い確率でセーフになる「驚愕の韋駄天」だ。俊足に惚れ込むあるNPBスカウトは「1位候補」にリストアップしている。
「世界」と勝負できた元スプリンターが、野球人としても超一流の域に踏み込んでいる。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎