「評価するのは難しい」

夏の甲子園、地方大会の中止が決定し、NPBスカウトも次なる対応に迫られている
夏の甲子園(全国大会)と地方大会の中止。この決定はドラフト戦線にどのような影響を与えているのか。ある球団幹部は電話口で、こう語った。
「公式戦で1度も視察したことがない高校生を、指名したことは過去にありません」
5月20日、日本高野連が発表した地方大会中止の決定を受け、全国の47都道府県連盟では「代替大会」「独自大会」の開催を模索。例えば千葉県高野連が主催する大会については「公式戦扱い」にするとしている。
しかし、ベテランスカウトはこう指摘する。
「本来の夏の地方大会とは、力の入れ方が違う。つまり、評価するのは難しいです。試合で良いと思った選手を、練習でも見る。例えば、ボックスに打者が立たないブルペンで、いくら良いボールを投げても参考にはなりません。これまで何百人も見ていますから、分かります。試合中にのぞかせる何気ない仕草で、性格が見えてくることもあります」
もう一人の、スカウト幹部もこう明かす。
「中止の時点で、学校によって温度差があるのは確かです。一部では『3年生を中心に』という動きも見られますが、そのスタートの時点で、真剣勝負にはなりません」
3年間の高校野球の区切りの試合、最後の花道を飾る舞台。これまでとは異なるモチベーションでは、スカウト視点として、選手の実力を見極めるのは難しい判断になるという。
卒業後のプロを目指す高校生にとっては、アピールの場が少ない。自信を持って「プロ志望届を提出する」と踏み切るステージも限られる。実際、有力選手が大学進学や社会人野球へシフトチェンジする動きもあると聞く。
ただ、この「代替大会」「独自大会」も「無観客」での開催になれば、スカウト視察は厳しい展開となる。毎年夏、NPBスカウトは大会本部に身分証明書と名刺を差し出した上で、腕章やビブスをもらう手筈を整える。ビデオ撮影やスピードガンなど、機材使用のために申請し「関係者」として入場するのだ。全国47都道府県連盟を統括する日本高野連と、NPBとの信頼関係により成り立っている。
前出の球団幹部は言う。
「環境が整うのであれば入りたいですが……どうなのか……。ただ(視察したい)大学、社会人の関係者もいますからね。ベンチに入れなかった控え部員、保護者の方も何とか、息子の最後の雄姿を見たいでしょうから、こちらから希望は言えません。われわれは各高野連の判断に従いたいと思います」
相手があって初めて動ける仕事
仮に練習試合を含めて、ゲーム視察ができなければ、練習視察に切り替えるしかない。そこで、ベテランスカウトは警鐘を鳴らす。
「スカウトが見に行く、となれば、高校生はどうしても力が入るでしょう。ケガをする恐れが出てくるので、しっかり調整ができた上での視察が良いと思います。ここまで来ましたから、時間を置いて行きたいと思います」
5月22日の12球団代表者会議において、スカウト活動は一律で再開することが確認されたという。あくまでもスカウトの現場とは、相手があって初めて動ける仕事である。緊急事態宣言が明けても、日常に戻るまでは、かなりの時間がかかるだろう。球音が戻っても、スカウト戦線はしばらく「活動停止」が続く。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎