
山岡泰輔の昨季1勝目はチームのシーズン初勝利となり、ウイングボールは就任1年目の西村徳文監督にプレゼント。今季は“開幕戦”でこの光景を再現させたい
思いの強さは昨年末から感じ取れた。2019年12月1日。契約更改を終えると、自然と話題は来季(今季)へと移った。
「立つつもりでいます。誰にも渡すつもりはないし、渡したくはない。自分の中では『来年も』と、ずっと思っている」
その場所は、開幕戦の先発マウンドだ。自身初の開幕投手を担った昨季は、
日本ハム打線を7回まで2安打1失点も、8回に2失点を喫して同点に。この回で降板し、自身に勝敗はつかなかったが、チームは延長10回にサヨナラ満塁弾を浴びて3対7で敗戦した。
勝てなかった──。その悔しさは、ずっと胸にあった。
「あの試合があったから1年間、投げ続けられたんです」
開幕戦で白星を呼び込めなかった右腕は、2度目の登板となった4月5日の
楽天戦(京セラドーム)で8回3安打無失点の快投。開幕から6戦未勝利だったチームを初勝利に導くと、試合後にウインニングボールを西村徳文監督に手渡した。「開幕(戦の登板)から一周回ったけど、渡せてよかった」と笑った右腕は、以降チームで唯一先発ローテを守り続け、13の勝ち星を重ねて勝率第一位のタイトルを獲得した。
奮闘する中で、常に胸にあったのは“開幕戦”だ。象徴するのが、初回に必ず投球プレートに刻む“信”の文字でもある。
「開幕戦前の全体ミーティングでの一言目に監督が『信は力なり』と言ったんです。シーズン最初の言葉だからこそ、一番大事な言葉だと思ったんです。その言葉を忘れないようにしよう、と」
バックの守備に、攻撃の援護。周囲を信じて腕を振り続けたからこそ、結果がついていきた。そして、今季は開幕での“結果”を期す。
「相手は違うけど、リベンジする機会を与えてもらえた。そこに向けてしっかり準備してきたし、開幕戦は最後まで投げて、そして抑えれるようにしたい」
ただ、開幕白星は目標ではあるが、“目的”はその先にある。
屈託のない笑顔で常に口にするのは「優勝したいんッスよ」。心からの願いを形に変えるべく、そして1年前のリベンジを果たして好発進を切るために。明日、開幕を迎えるプロ野球。3カ月遅れとはいえ、開幕への思いは変わらない。今季もチームの先陣を切って、山岡泰輔が開幕のマウンドに上がる。

昨季の契約更改後、絵馬にしたためた2020年の誓いは“優勝”の二文字だ
取材・文=鶴田成秀、写真=BBM