
7月15日の西武戦で4勝目。試合後、鈴木大地(左)とともにお立ち台に上がった涌井
昨オフ、金銭トレードによって
ロッテから
楽天にやってきたのが
涌井秀章だった。2009年に沢村賞を獲得し、最多勝に輝くこと3回(07、09、15年)。さらに日本代表として08年の北京五輪、09、13年のWBCに出場するなど高い経験値を持つ日本を代表する投手だ。だが17年から3年間、敗戦数のほうが勝っていた。それだけにトレードで加入した際には、かつての姿は期待できないのではと感じていた。だがフタを開けてみれば開幕から無傷の4連勝。腰の張りにより
岸孝之が出遅れる中、先発の柱として頼れる存在となっている。
圧巻なのは持ち前のポーカーフェースで、劣勢やピンチの場面でも、顔色ひとつ変えないそのマウンドでの姿だ。特に7月15日の西武戦(楽天生命パーク)では雨が降りしきる中での試合だったが、雨など気にしていないかのような振る舞いで、ぬかるむマウンドで腕を振り続けた。その姿に対しては
三木肇監督も「さすがだなと思います。こういう雨の中でもしっかりゲームを作って、ゲームのポイントでもスイッチを入れながら状況に応じたピッチングができる」と称賛を惜しまなかった。
昨年の覇者・西武との今季初対戦という重要な試合だったが、我慢強く投げ、7回をわずか1安打無失点投球。流れを渡すことなく、チームを勝利へと導いた。
その投球を支えているのが、先発投手としてのプライドと向上心だ。入団会見時には「希望はもちろん先発」と語り、「常にキャリアハイを狙っている」と闘志を燃やした。さらに、多彩な変化球と抜群のコントロールを持つベテランながら、シーズン前にはシンカーを習得するなどなおも進化し続けている。
15日は楽天生命パークで今季初めて観客を入れての試合だっただけに、あいさつを兼ねてのお立ち台。そこで「16年目にしてようやく仙台の空気があってきたのかなと思います」と笑顔を見せた。進化の足を止めない34歳。涌井のプロ野球人生にはまだ続きがあることを予感させるマウンドだった。
文=阿部ちはる 写真=BBM