「彼らなりにやってくれた」

東京都高野連主催の独自大会。関東一高は東東京大会決勝(8月8日)で帝京高にサヨナラ負け(2対3)し、2年連続での優勝を逃した
甲子園がなくても白球への情熱は変わらない。
東京都高野連主催の独自大会。関東一高は8月8日、帝京高との東東京大会決勝でサヨナラ負けした。1点リードの9回裏に追いつかれると、11回裏に力尽きている(2対3)。試合後、閉会式を待つ関東一高のメンバーは三塁ベンチで号泣。本気で立ち向かったからこその感情表現だった。
同校は昨夏の甲子園で8強。昨夏までの5年で3度、東東京を制した全国常連校だ。新チームの昨秋は、東京大会3回戦で帝京高に惜敗(7対9)している。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2年連続の甲子園出場をかけた地方大会は中止も、モチベーションが下がることはなかった。米澤貴光監督は言う。
「子どもですので(甲子園が)消えたことで(心の)不安定さはあった。でも生徒たちには意地がありましたし、こちらにも意地があった。彼らなりにやってくれたと思います」
頂上決戦の相手は帝京高。昨秋の雪辱を果たし「意地」を見せるには、これ以上の相手はなかったが、力及ばなかった。
「秋に負けているので、年に2回は負けられない。東東京で帝京は追いかける存在ですし、私の前には前田(三夫)監督(甲子園歴代4位タイの51勝)がいる。跳ね返されてしまった。次に勝てるようにしていきたい」
侍ジャパンU-18代表でのコーチ経験があり、実績豊富な米澤監督にとっても、今夏はあらためて学ぶ機会となったという。
「(甲子園という)目標がないと成長しないんじゃないか? と思ったが、でも、生徒たちは、きっかけさえあればやってくれる。彼らの努力を見てきた。ウチは変わらない夏だった。勝って、東京のチャンピオンになりたかったが……。悔しさは当然、ある。(ベンチの涙については)負ければ誰でも悔しい」
夏の思い出を財産に
東京は新型コロナウイルスの感染者数が増加傾向にある。米澤監督は本音をこう漏らした。
「3年生は精いっぱいやってくれた。いつ生徒から感染者が出るか? 怖さがあった……。ウチは生徒数が多いので、満員電車で乗ってくるので……。早く試合ができて、1試合でも多く、最後までできたのは良かった」
厳しい社会情勢下でも、万全の感染予防対策下において、努力の成果を発揮する舞台が用意された。米澤監督は「変わらない夏」を過ごすことができた、大会主催者の東京都高野連や関係各所への感謝の言葉を繰り返した。
今大会は人数制限された保護者、関係者、報道陣を除いて無観客試合。冒頭のシーンに戻れば、泣き崩れ、嗚咽を漏らす関東一高の選手たちの様子は、スタンドにもはっきりと聞こえてきた。真剣勝負を挑まなければ、涙は出ない。最大の目標は甲子園だが、大前提として、高校野球の目的は人間形成にある。さまざまな困難を乗り越えた球児たちは、夏の思い出を財産に、次のステージへと進む。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎