「高橋、中森は12人の中に入る」
2020年甲子園高校野球交流試合はさまざまな感染予防対策が講じられ、無観客試合の中で計6日間の日程を無事に終えた。
NPBスカウトは1球団2人以内、事前申請により入場が認められた。全16試合、12球団のプロ関係者が32校の出場選手に目を光らせた。2人が固定で全試合を視察する球団もあれば、5人ほどが担当試合で回す、さらには、前半(8月10~12日)と後半(15~17日)で完全に布陣を分けるチームもあった。
複数球団のスカウト幹部に評価を聞いた中で、ドラフト1位候補に挙がったのは2人である。中京大中京高の154キロ右腕・高橋宏斗、明石商高の151キロ右腕・
中森俊介だ。
ヤクルト・
小川淳司GMは中森の投球について「本人は試合後、不満だったようなコメントを残しているようですが、見た側としてはストレート、変化球とも安定感を感じました。高橋君はとにかく球速があって、総合的に能力が高い。上位候補? そうだと思います」と絶賛した。
巨人・榑松伸介スカウト部次長は「中森投手は完成度が高くクレバーさがあり、高橋投手は馬力型でスピードボールは魅力。12人の中に入ってくるでしょう」と好評価をしている。
しかし、交流試合終了時点で高橋は「基本、進学」と話し、中森も「完全に決めていない」と大学進学も視野に入れている。仮に2人ともプロ志望届の提出を回避するとなれば、ドラフト戦線は大きく変わることとなる。

12球団のスカウトは1チーム2人以内という制限の中で、夏の甲子園を視察した
2人に次ぐ評価を得たのは智弁和歌山高・
小林樹斗だ。尽誠学園高との交流試合では救援で3イニングを投げ、最速151キロとポテンシャルの高さを披露。
ロッテの
永野吉成球団本部プロ・アマスカウト部部長は「中森君、高橋君に匹敵するくらいのキレの良いボールに、力強さも加わった」と素材に惚れ込んだ。
野手に目を向けると、捕手では履正社高・
関本勇輔、星稜高・
内山壮真は遊撃手も守れる器用さがあり、センスの良さが注目される。
内野手では遊撃手3人が目を引いた。
オリックス・
牧田勝吾編成部副部長は智弁和歌山高・
細川凌平について「ベースランニング一つを取っても光っていた。練習では誰よりもユニフォームが真っ黒。キャプテンシーを含めた人間性も魅力」と絶賛。また、中京大中京高・
中山礼都について、巨人・榑松部次長は「懐の深い守備。プロのショートのレギュラーとしてやっていける素材」と太鼓判を押した。東海大相模高・
山村崇嘉は大型内野手としての存在感があり、仙台育英高・
入江大樹には伸びしろに期待するスカウトが多かった。
外野の筆頭格は来田
外野手は中森とともに、1年夏の甲子園からチームをけん引してきた明石商・
来田涼斗が筆頭格であった。ロッテ・永野部長は「体の力に加えて、スター性もある」と独特なオーラに着目すれば、オリックス・牧田副部長は「初回の入りを楽しみにしていたんですが、ファーストストライクをフルスイングできていた。しかも変化球を呼び込んで……。体幹の強さを見た。打席の結果だけでなくて内容を見ており、高評価は変わりません」と語った。脚力では明徳義塾高・
奥野翔琉が抜きん出ており、巨人・榑松部次長は「足のスペシャリストになれる」と、そのスピードに驚愕した。
もちろん、今回の甲子園で「最終ジャッジ」というわけではない。8月29、30日は甲子園(西日本)、9月5、6日は東京ドーム(東日本)で、プロ志望届提出者を対象とした「合同練習会」が控えている。今年は新型コロナウイルスの感染拡大により、各校とも活動自粛。プロの目としては、例年よりもコンディション調整は遅れていると見る。本来であれば8月がピークのはず。数字がすべてではないが、今回の交流試合16試合での総本塁打が3本ということからも、少なからず影響が出ているものと思われる。
ドラフト会議は10月26日。時間があるようでない。「運命の日」まで、スカウトたちは全国津々浦々を動き回る。
文=岡本朋祐 写真=BBM