読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は内野守備編。回答者は現役時代、7度、ゴールデン・グラブ賞に輝いた、元中日ほかの井端弘和氏だ。 Q.2019年のセ・リーグのゴールデン・グラブ賞を、巨人の坂本勇人選手が受賞しました。セイバーメトリクス(UZR)上では、中日・京田陽太選手が最も良い数値を出していたため、一部で議論になり、京田選手も「打撃面で目立たなければいけない」というような趣旨の発言をしていました。井端さんはこの件に関して、どのような考えを持って見ていますか。(岐阜県・30歳)
前回の続きです。今季、変化があった中日・京田陽太選手のショート守備ですが、昨季までは大きな問題点(欠点)があったと解説しました。大きく『守備位置の浅さ』、『バッターによって守備位置を変えないこと』の2点で、質問で比較対象にされた
巨人の
坂本勇人選手は守備位置が深く、バッターによって守備位置を変え、バッテリーのサインを確認し、1球1球ポジションを微調整していることにも触れました。ここからはこの2点がなぜ問題になるのか説明しましょう。
昨季までの京田選手は、誰が打席に入っても、ほぼ同じ場所を守っていました。ナゴヤドームならば外野と内野の間にラインが引いてあり、私は現役時代にこのラインよりも後ろ、外野側に少しだけ出て、そこからリズムをとりながらライン上くらいまで前に出て守っていましたが、京田選手の場合、このラインよりもかなり前でした。
私の場合、手を広げて120度(くらい)前の範囲で守る意識でいましたが、守備位置が浅いとそうはなりません。例えば、三遊間に打球が飛ぶと、斜め前に出ながら捕球か、厳しい打球なら真横に移動しながら捕球するのが一般的ですが、守備位置が前の京田選手は、斜め後ろに下がりながら捕球をしていました。二遊間の打球も同様です。下がりながらダイビングというシーンを目にしますが、守備位置が深ければこんな難しい処理にはなりません。巨人・坂本選手ならばダイブすらしないでしょう。

イラスト=横山英史
加えてどんな打球に対しても必ず一歩目を大きく前に出します。まるで相撲の立ち合いみたいに。そのあと、下がりながら打球を追うのですから、ちょっと理解ができません。考えられるのは、前の打球に対して自信がないか、バッターランナーとは競争ですから、少しでも前に守ってその距離を縮めたいのか……。ただ、下がって捕球をすれば、スローイングをすることを考えると大きなロスを生みますので、本末転倒です。
このコーナーで何度も解説していますが、内野手は捕って終わりではありません。投げるために捕ることを誰もが考えていて、深く守るのは三遊間、二遊間の打球に対して少しでも良い体勢で入っていくことも1つの理由で、前の打球に対する不安があったとしても、プロならばさまざまなことを総合的に判断して後ろを守ってほしいなと思って見ていました。
<「後編」に続く>
●井端弘和(いばた・ひろかず)
1975年5月12日生まれ。神奈川県出身。堀越高から亜大を経て98年ドラフト5位で中日入団。14年に巨人へ移籍し、15年限りで現役引退。内野守備走塁コーチとなり、18年まで指導。侍ジャパンでも同職を務めている。現役生活18年の通算成績は1896試合出場、打率.281、56本塁打、410打点、149盗塁。
『週刊ベースボール』2020年9月7日号(8月26日発売)より
写真=BBM