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自身のグッズを高々と上げてアピールする元山
ヤクルト担当の私はその紙を見て、まず首を傾げた。「なんだこれ?」。ヤクルトの新入団会見が終わったあと、会社に届いた「新人アンケート」の紙だ。2021年度の選手名鑑を作成するためのアンケートを、球団を通じて事前に渡していた。
その紙には「ヒユーボール」と書いてあった。ヒユーボール? ヒューボール? 何のことだろう。書いてあった個所は「投げられる変化球(※投手のみ)」の項目だった。記入者は、ドラフト4位の
元山飛優。東北福祉大の、強肩と広大な守備範囲を誇るアマチュア球界屈指の遊撃手だ。そのときは「あ、『飛優ボール』か」と合点がいったが、そもそも彼は内野手だから、変化球の持ち球を記入する必要なんてない……。きっとギャグで書いてくれたのだろう。内野手だから、選手名鑑の元山の欄に球種の掲載はない。ただ、せっかくなのでコラムで紹介させてもらうことにした。
彼のアンケートには、ほかにもクスッと笑ってしまうようなことが多々書かれていた。ルーキーがこんなにアンケートで笑いを取りに来るのも珍しい。だが、ヤクルトのルーキーたちの名鑑アンケートは、毎年強い印象を植えつけられる。昨年まではアンケート形式ではなく対面取材での調査だったこともあるが、
村上宗隆は、同期とはいえ年上の
塩見泰隆に「早くしろ」と急かされても動じずに質問の答えをじっくり吟味していたし、その翌年の
清水昇は野球人生の思い出を聞いても「特にないですね」と言い放った。仮にも大学日本代表に名を連ねるレベルのドラフト1位右腕なのに、である。そして昨年の
長岡秀樹と
大西広樹は、こちらのメモを取る手が追いつかないスピードで好きな女性芸能人の名前をポンポン挙げた。「ちょっと待って」というこちらの制止も効果なしだった。
個人的な思いだが、これは悪いことではなく、良いことだと思う。プロの世界に入ってきた以上、その才能が認められていることは事実なのだ。これから、新しい環境下でのストレスや緊張感、プレッシャーに負けず、遠慮せず、大きく大きくその才、個性を伸ばしていってほしい。もしかすると、この「マイペース」は現代っ子の特徴なのかもしれないが、1年目から堂々と振る舞えるのは、それだけ心が強い証拠だろう。元山にも、もちろん大西や長岡にも、その他の若手選手たちにも、堂々と自信を持ってプレーして、成長していってほしいと思う。
余談だが、「ヒユーボール」の真相はいずれ解明し、コラムで紹介したい。元山のキャラクター、きっと愛される選手になるはずだ。
文=依田真衣子 写真=矢野寿明