
3つのアウトを奪えば自然と笑顔がこぼれる
弱冠22歳。今秋のドラフトで指名された大学4年生と同じ年齢ながら、プロの舞台で勝負を楽しむ余裕さえも感じさせるから恐れ入る。3つのアウトを奪い終え、ベンチに引き揚げる際にこぼれる笑顔、そしてその心は、まさに野球少年そのものだ。
「小さいときから変わらないというか、やっぱり三振を取ると素直に『嬉しい』。見逃しでも、空振りでも、三振はどちらも醍醐味があるというか。見逃しなら手がでないボールを投げられたという意味になるし、空振りならバットに当てさせなかったことになる。どちらも良さはあるし、どちらも嬉しさがあります」
今季、パ・リーグ最多タイの149三振を奪ってタイトルを獲得した
オリックスの
山本由伸が、純粋な思いを明かす。ただ、“奪三振”へのこだわりは強くはない。先発再転向を志願した昨春キャンプでは「究極の目標」として「1人の打者に対して1球で終わること」を挙げていた。それは長丁場のシーズンを戦い抜く上で、掲げる3つの理想からだ。
「負けない、打たれない、そして疲れない。打たれないから負けないし、球数も増えないから疲れない。これが理想の先発投手なんです」
そもそも最速158キロの直球に加え、今季はフォークも150キロを計測。バットの芯を外すカットボールも150キロに迫り、そのスピードはプロの投手の中でも抜きん出る。威力十分のボールで真っ向勝負を挑み、今季、投じた全1961球のストライク率は約65パーセント。「できるなら全球ストライクを投げたい」という『球数減』の意識は、変化球を意のままに操る“テクニック”の向上も呼んでいる。「例えばランナー一塁なら、空振りを奪うより、打たせてゲッツーを取るのがベスト。だから、微妙にフォークにしても落差を微妙に小さくしているんです」。
スピード&テクニックで三振も奪え、状況に応じて打たせて取る。ましてや、今季は新球・チェンジアップは「やっぱり覚えたての球種は優先順位が下になる。それに落ちる球種はフォークもあるので」と使わずじまい。さらなる進化の余地さえ残しているから末恐ろしい。
そんな右腕の“原動力”は何なのか──。
「とにかく野球を楽しむ気持ちと、上手になりたいという気持ちが強ければ強いほど、うまくなれると思う。それは、当たり前のように感じて皆、忘れがちなことだと思うんです。そういう気持ちを大切にしていきたい」
圧倒的なスピードも、打者が舌を巻くテクニックも、すべては純粋な思いから生まれたもの。右腕のスゴ味をひも解けば、行き着く先には「野球を楽しむ」その心、グラウンドで見せる笑顔がある。
写真=BBM