当たり前の積み重ねをしっかり

明大の新主将・丸山和郁は50メートル走5秒8の俊足。高校、大学を通じて侍ジャパンでプレーしており、卒業後はプロ入りを志望する
明大野球部には、伝統的に「幹部」しか立ち入れない「領域」がある。
トイレ掃除である。人が最も嫌がると言われる雑用を最上級生が担当。丸山和郁(新4年・前橋育英高)は毎朝、便器と向き合っている。
「水回りをキレイにしています。気の緩みがないようにしていきたい。スリッパをそろえる。ゴミがあったら拾う。時間を守る。あいさつをする。誰もができることを全力でやる」
明大は全寮制であり、100人以上の部員が一つ屋根の下に住む。就任2年目の田中武宏監督は「ここでの生活が、神宮(東京六大学リーグ戦)でのプレーに出る」と力を込める。1月いっぱいは試験勉強を優先。単位が取得できない部員は、練習から外される。つまり、メンバー争いから脱落。当然ではあるが「野球人である前に学生」を徹底指導している。
有言実行。主将・丸山が率先して動いているわけだが、なぜ、そこまで、野球以外の部分の大事にしているのか。
群馬・前橋育英高出身。2013年夏の甲子園で全国制覇へ導いた荒井直樹監督は「凡事徹底」を指導モットーとする。丸山には高校3年間の取り組みが根底にある。練習始動日となった1月8日にも開口一番「当たり前の積み重ねをしっかりしていこう!」と強く訴えた。
チームスローガンは考案中だ。
「凡事徹底? それは、育英ですので……。遠回しには、その意味になるでしょうが、メイジのカラーをメーンに出していきたい」
田中監督の評価は手厳しい。
「昨年の4年生は、主将の公家(公家響、大阪ガス)を中心によくやってくれた。一方で、この学年はもともと出来が良くない……。この1年間、かなり怒ってきました」
もちろん、期待の裏返しだ。
「昨年までは、ヤンチャな次男坊。兄ちゃん(旧4年生)が卒業して、最上級生にならないと分からない部分もある。丸山以下、副将も手探りながら『やろう!』という姿勢を見せている。自分のことはしっかりやるが、まだ、周囲に対しては遠慮がある。身の回り、チーム全体としてどうなのか? 力のある子が多く、(神宮での)経験値もある。そこを、どう生かしていくかということです」
つまり、先輩から後輩へと代々つないできた「人間力野球」を継承することが最重要課題。丸山はグラウンドでの信条を、こう言う。
「打たないなら守れ。守れないなら走れ。走れないなら声を出せ。声を出せないなら、夜逃げしろ」
これも、前橋育英高での教えだ。「夜逃げしろ」とは極端な表現だが、声も出せなければ、グラウンドに立つ資格はないという意味。新たなチームリーダーの下で、2021年もメイジらしい粘って、泥臭い野球が見られそうだ。
文=岡本朋祐 写真=BBM