平良海馬のような直球を
横浜商大の154キロ右腕・飯田琉斗。エースでありながら主将も任され、最終学年は「日本一」と「ドラフト1位」を目標に掲げる
横浜商大・飯田琉斗(4年・向上高)の好きな投手は
西武・
平良海馬だ。1999年生まれの同級生である。八重山商工高からプロ入りし、昨季は中継ぎで54試合に登板して、パ・リーグ新人王を受賞。飯田は平良の真っ向勝負に目を奪われたという。
「自分(187センチ)よりも背が低い(173センチ)のに、あれだけのボールを投げる。困ったらの、真っすぐ。それでも打たれない。自分も相手が分かっていても、バットに当てさせないストレートを投げたいです」
地元・神奈川の向上高では最速140キロだった。3年夏は神奈川大会5回戦で東海大相模高に延長11回の末に惜敗(1対2)。全国レベルの強豪校に対し、自分の力を出し切れたことで、初めてプロを意識したという。
岩貞祐太(現
阪神)、
進藤拓也(現
DeNA)、
渡邊佑樹(現
楽天)など、投手育成に長ける横浜商大へ進学。「佐々木(正雄)監督(2018年限りで勇退)の下で指導を受ければ、(プロも)手の届くところへ来る」と、元投手だった指揮官の下で、基礎から鍛錬を重ねた。専門的なトレーニングを継続すると、1年秋に150キロの大台に到達し、2年春には自己最速の154キロをマークして注目の存在となった。
3年春を前に好調をキープも、コロナ禍により、春季リーグ戦が中止。活動自粛期間中も自主トレーニングを続けていたが、投手とは繊細な部分がある。実戦から離れていたことが影響し、指先の感覚に狂いが生じた。同秋は調子を崩し、不本意な結果に終わった。
停滞した状況から打破する、大きなきっかけがあった。新チームで、主将に就任したのだ。井樋秀則監督によれば、横浜商大で投手が同ポストを担うのは初めてだという。「ピッチャーでの負担は、承知の上です。チームを背負う立場を経験して、一皮むければ、花開く可能性を秘めている」。指揮官が期待を込めての抜てきだったが、飯田自身も最終学年はリーダーとして、けん引したいと考えていた。
「主将は、全員が納得する言動を取らないといけない。練習の準備、片付けをはじめとして、あいさつ、返事等も上級生が率先して実行する。上がまず、先頭に立って動かなければ、下はついてこないですから」
自分のことよりチーム優先
当初は1月10日に始動する予定だったが、緊急事態宣言を受け、大学からの指示で活動停止。21日からグラウンドが使えるようになり、26日からグループに分けての全体練習をスタートさせた。全員で汗を流すことができなかった期間は毎日、2回(12時、20時)のオンラインミーティングを実施。主将・飯田は「68人いれば、68通りの考えがある」と、多くの意見を吸い上げた。「チームに足りないもの」など、お題に対して部員5人に発言する場を設けた。これまでは4年生幹部を中心に回していた運営スタイルを、下級生でも発信できる風通しの良い世界を作ったのだった。
「向上高校がそうだったんですが、一人ひとりに役割を与える。全部員が力を発揮しないと、神宮では勝てない」。戦うのはベンチ入りの25人だけではない。チームの絆、結束、一体感を訴えた。目標は「大学日本一」。横浜商大は過去4回の全日本大学選手権に出場しているが、未勝利である。この現実にも、飯田は強気の姿勢を崩さない。
「それは、過去のことですので……。先輩方しか知らないこと。自分たちが勝てばいいだけなので。一人でも無理だと思えば、達成できない。自分のことよりもチーム優先です」
部全体を見渡す中で、飯田自身も、不振脱出の手応えを得ている。昨秋以降、フォームづくりを一から着手し、ボールのかかりが戻ってきた。変化球もカーブ、カットボール、チェンジアップ、フォークとすべての球種を勝負球として使えるのが、飯田の武器である。
2月22日からオープン戦が組まれているが、リーダーの自覚から早めに仕上げていく構えだ。チームを勝利へ導いた上で、進路においては「ドラフト1位を目指す」と貪欲だ。「主将というチャンスを与えてくれた井樋監督に、恩返ししたい思いも強いです」。2021年春。うなりを上げる主将・飯田のストレートに、多くの熱視線が注がれるはずだ。
文=岡本朋祐 写真=BBM