6回裏、降雨コールドで

200勝を遂げてヒーローインタビューを受ける堀内
「悪運が強いんだ。僕の野球人生と同じだよ」
会見で、
巨人・
堀内恒夫はさらりと言ってのけた。
降りしきる小雨の中、19分遅れで始まった1980年6月2日の巨人対
ヤクルト戦(後楽園)。200勝に王手をかけた堀内が、先発のマウンドに上がった。初回、1点を失ったが、2回以降は気合のピッチング。雨でマウンドが軟らかくなってくると、足が滑らないよう、無走者でもセットポジションに切り替え、1球1球、慎重に投げた。
打線も3回までに効率よく4点を取り、援護。「5回で交代かと思っていたが、(
長嶋茂雄)監督はそんな素振りも見せなかったし、打線の援護も理想的。投げ切らなければいかんと、覚悟したよ」と堀内。
打撃だけではない。それまで「草野球」と揶揄されていた守備陣にも、好守がいくつも見られた。前回、堀内の登板試合(
阪神9回戦)に、9回裏一死一、二塁からライトフライをポロリ。阪神にサヨナラ勝ちを許した
淡口憲治が、雨でツルツルの人工芝で、判断よくスライディングキャッチ。天も味方した。6回裏、巨人に5点目が入ったところで降雨
コールドになった。
5月8日、
中日戦で199勝を挙げてから、3度目の正直。その間、61歳の母は願掛けで、大好きなお茶断ちをした。「スピードが落ちてきた今だからこそ、この1勝はうれしい」と堀内。笑顔で話していた試合後のインタビューだったが、質問が家族の話に及ぶと、その目が見る見るうちに赤くなり、タオルで顔をおおった。
写真=BBM