歴史を熟知した上で
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慶大の主将・福井章吾は東京六大学の優勝校に与えられる天皇杯を手にして、充実感ある表情を浮かべた
20年以上、東京六大学リーグ戦の取材をしているが「天皇杯の意義」について、学生の口から具体的に聞いたのは初めてである。
慶大は今春、3季ぶり38度目のリーグ制覇。5月29日の閉会式で慶大の主将・福井章吾(4年・大阪桐蔭高)に天皇杯が授与された。セレモニー後、報道陣からその感想を求められると、こうコメントした。
「思ったよりも、重かったです。野球界に一つしかないものを手におさめることができて、ありがたく、感謝の気持ちでいっぱいです」
各校の監督からは、毎シーズンのように聞かれる内容だが、学生の口から発せられたのには驚いた。天皇杯は宮内庁から原則として1競技につき1つ、統括団体へ与えられている。各競技の日本一を決める大会の優勝者に授与されるケースがほとんど。しかし、硬式野球は例外だ。1926年秋に「摂政杯」が東京六大学に下賜された歴史的背景もあり、戦後は「天皇杯」として、同連盟に下賜されている。福井は歴史を熟知した上で、96年目を迎えた東京六大学の本拠地・神宮でプレーしていた。
6月7日には第70回全日本大学選手権記念大会が開幕する(昨年は新型コロナウイルスの影響により中止)。慶大は同連盟の代表として3年ぶりの出場。1987年以来、4度目の大学日本一を目指す舞台となるが、主将・福井らしい抱負で、この日の会見を締めている。
「六大学の代表として戦いますが、他の5大学は秋へ向けてのスタートを切っています。大学選手権を通して、秋に戦える準備をしていきたい。秋に勝つ。春秋連覇が目標です」
福井は大阪桐蔭高でも主将として、3年春のセンバツ優勝を経験。トーナメントにおける勝ち方を知り尽くしており、誰もが決意として語る「一戦必勝」にも説得力が増す。全国26連盟から27校(九州地区連盟からは北部、南部の各ブロックから出場)が名乗りを上げる、2年ぶりの頂上決戦から目が離せない。
文=岡本朋祐 写真=矢野寿明