光る新人たちの活躍

6月12日の楽天戦(楽天生命パーク)で田中将大から16号ソロを放った佐藤輝
交流戦を11勝7敗、貯金4で乗り切った
阪神がセ・リーグのペナントレースで首位を快走している。強さの理由はチームの世代交代に成功したことだろう。若手のはつらつプレーはチーム内に競争意識と緊張感をあおり、ここ一番でのモチベーションを高めている。選手層が厚く、よりレベルアップをという意識革命も呼んだ新生タイガースは、リーグ戦再開後も例年とはひと味違う戦いぶりを見せてくれそうだ。
今シーズンは阪神を筆頭に新人の当たり年と言われる。ドラフト1位の
佐藤輝明が規格外のバッティングを見せれば、
中野拓夢が攻守でしぶとさを発揮。投げては、左腕の
伊藤将司が先発陣の一角に食い込むなど、新人たちの活躍が光る。
佐藤輝は4年先輩の
大山悠輔に多大な影響を及ぼしている。大山は昨シーズン、
巨人の
岡本和真と終盤まで本塁打王を争うなど、球界の大砲として成長。今季から球団のニューリーダーとして認められ、キャプテンに就任した。

6月12日の楽天戦(楽天生命パーク)で先制2ランを放った四番・大山
「覚悟と責任感を持ち、新しい姿を見せたい」と臨んだシーズンだったが、怪物ルーキーの存在感が日に日に増大。背中の張りで一軍登録から外れていた間、佐藤輝が「四番・三塁」を無難に務めていた姿を見せつけられ、大山の心中が穏やかであろうはずがない。負けず嫌いの主砲は、さらなるレベルアップを期しながらの巻き返しをうかがっている。
遊撃手として先発の出場機会が多い中野は、三遊間を守れるユーテリティープレーヤーとして内野陣に刺激を与えている。たとえ失策をしても臆することないアグレッシブな守備は、ほかの野手にも波及。
糸原健斗、
木浪聖也、
小幡竜平ら若手が、安穏とできない状況を作り出した。
矢野燿大監督が理想とする「高いレベルのチーム内競争」の激化は、長年変わりそうで変われなかったチームの体質変革をうながした。二軍落ちしていた
北條史也は、一軍に昇格した6月2日の
オリックス戦(甲子園)で2打点といきなり活躍。北條が「下(二軍)でやってきたことを全部出そうと思って試合に臨んだ」と語ったように、今の阪神には「何が何でも結果を出す」という前向きなムードが充満している。
壁をどう打ち破っていくか

今後は糸井らベテランの力も必要になってくる
他球団に先んじたアドバンテージは、若い力による勢い。だが、それをペナントレースで持続し続けるのは難しい。特に佐藤輝ら新人は、これまで長いシーズンを戦った経験がない。他球団からのマークも当然、これまで以上きつくなる。阪神が勝ち続けるためには、いくつかの越えなければならないハードルがある。
ライバルたちは「若いチームにやられっぱなしでは終わらせない」と、プロのプライドと意地をぶつけてくる。そのぶつかり合いが名勝負を生み、プロ野球の最高の醍醐味となるが、今年の阪神には、数々の試練を押し切るだけのポテンシャルの高さがある。壁をどう打ち破るか――。今年は阪神ファンにはその楽しみがある。東京五輪期間中に公式戦は中断となるが、それも経験不足を弱点として持つチームの貴重なリフレッシュ期間として有利に作用するだろう。
勝負の夏を乗り切るためのノウハウ、胸突き八丁となる秋の戦い方はどうか――。頼りになるのが、ベテラン陣の存在だ。過去に9度の打率3割をマークし、今夏に40歳を迎える
糸井嘉男は、ここぞの勝負どころを知っている。プロ16年目の左腕・
岩田稔も、出番を見据えて調整に励んでいる。
生まれ変わった関西の雄には、ベテランだけではなく、若手に負けまいと息巻く中堅もいる。さまざまな思いを抱く大小の歯車がうまくかみ合えば、15年間遠ざかっているリーグ優勝と、36年ぶりの日本一という悲願のゴールも見えてくる。
写真=BBM